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04


「飛雄、こっちこっち!」
「名前さん」

待ち合わせ場所に指定された駅で名前さんと合流した。配信で見掛けた時も思ったが、この人はあまり変わっていないように見える。別に童顔とかそういうのではなく、纏う雰囲気があの頃と変わらない。安心感さえある。

「今は焼き肉と焼き鳥どっちの気分?」
「焼き肉!……が良いっす」
「あはは、だと思って予約しといたんだよね」

食い気味に答えてしまった俺の返答を、名前さんは予想していたらしい。名前さんに連れられて入ったのは、お洒落な音楽が流れる個室の焼き肉屋だった。彼に話したいことも聞きたいことも沢山あるから個室は有難い。そういや名前さんは昔から、こういう気遣いをさり気なく出来る人だった。

「飛雄、ここの裏メニューのカレーライスが超美味いんだよ」
「マジすか!食いてぇ」
「言うと思った」

名前さんが適当に注文をしてくれる。裏メニューって、頻繁にこの店に来たりするのだろうか。確かに、間接照明が目を惹くこの店の雰囲気は名前さんに合ってると思う。今、話題に出そうとしているあの人にも。

「名前さん、あの、及川さんとは」
「及川?あぁ、続いてるよ」
「じゃあ日向との写真見ました?」
「見た見た!超ウケるよな」

卒業してからも及川さんと名前さんの友人関係は変わらず続いているらしい。あの及川さんが、名前さんと岩泉さんから一人離れて海外へ行ったと聞いた時からもしやと思っていたが、それが杞憂だと分かり少し安心した。

「世界って狭いなって思う」
「あの写真見た牛島さんも複雑な顔してました」
「牛若チャン選手の複雑な顔は少し見たい」
「牛島さんのことをそう呼ぶの、多分この世界で名前さんだけっスよ」

名前さんはバレー経験者ではない。この牛島さんへの認識は、純度100%及川さん由来のものだろう。

運ばれてきた肉を名前さんが何も言わずに焼いてくれる。この人のこういうとこ、スゲーと思う。俺の取り皿に焼けた肉を乗せながら「たらふく食いな」と笑う名前さんに、別の話題を振る。

「名前さんは今大学生……なんすよね?」
「うん、そうだよ」
「写真集ってなんですか?モデルやってるんすか」
「俺がモデルやるように見える?」
「見えます」
「あ、見えちゃうか」

俺の答えが予想外たったのか、ケラケラと笑われる。だって名前さんは誰から見てもび、びもく、びもくしょうれいというやつだ。菅さんもそう言ってた。及川さんと違って性格も良いし。

「眉目秀麗ね」
「うす」
「別にそんなことはないけど、褒められるのは嬉しいよ」
「もしかして、撮られる側じゃないんですか」
「うん」
「すげぇっすね!」
「俺は飛雄が変わってなくて超安心したよ」

名前さんは高校を卒業する頃にカメラを始めたらしい。そして進学してからも続けていたら何個か賞を貰ったりと、とにかく色々あって超運良くここまで来ちゃったんだよね、と名前さんは言う。運良く、と彼は言うが、昔から名前さんは何事もセンス良くそつなくこなすタイプだ。運動も勉強もどちらも出来る。ただ全てを面倒がるだけで。

「本屋さんで買えますか」
「大きいとこならあると思うけど、別に買わなくて良いからな」
「でも俺も見たいです」
「じゃあ今度会うときに1冊やるから」
「アザス」

それから名前さん発案で2人で写真を撮った。日向に送ってやろうと思う。名前さんは及川さんに送ると言っていた。

肉を焼き終えた頃に裏メニューのカレーライスを食べた。超美味かった。


20220228
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