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03


「名前」
「……なんだ、鉄朗か」
「なんだってなんだよ!電気も点けずになにしてんだお前」
「なにって……天井見てる」
「こっわ」

高校を卒業して上京した従兄弟の名前クン。こいつはスイッチのオンオフが極端で、暇な日や疲れている日は露骨に無気力になる。元々ものぐさな性格ではあったが、大学生になって更に顕著になったような気もする。

「鍵開けっぱなしだったぞ」
「面倒だった」
「あぶねーな……あ、昨日の配信見てた」
「あぁ、研磨のね」
「なんで名前は研磨の前だとしゃんとしてるのかねぇ」
「確かに」

名前はソファで横になっていた上半身を起こす。幼い頃からそうだが、こいつは研磨の前ではこんな怠惰な姿でいることはない。

「研磨は昔から可愛いから、研磨の前ではちゃんとしようと思うのかな」
「俺は可愛くないって?」
「…………」
「無言になるなよ」
「逆に鉄朗は自分を可愛いと思ってらっしゃる…?」
「カワイーだろうが。お前の飯の心配をして差し入れ持って来てやったんだけど」
「え、ほんと?鉄朗くん超可愛い」

手のひらを返して褒め始めた名前に少しだけ文句を言いながら、持って来た袋を渡す。自炊は出来る癖して飯を食うのを面倒くさがるこの男は、案の定夕飯はまだだったようだ。叔母さんにも「1人じゃ食事を疎かにするから、たまに一緒に食べてあげてね」と言われる程だ。

「中華だ」
「五目炒飯とあんかけ焼きそば、どっちが良い?あとエビチリとか春巻きとか適当に買ってきた」
「あんかけがいいな」
「ん」

名前は自分以外の誰かと一緒だとちゃんと飯を食うんだよな。それも特に少食でもなく、平均的な量を食う。いや、どんだけ面倒なんだよ。

「名前は高校生の頃とか、昼飯ちゃんと食ってたの?」
「ん?あぁ、食ってたよ」
「へぇ」
「俺は周りの人間に恵まれてるんだよな」
「……なんとなく想像できるわ」

名前のことを知れば知るほど、こいつは放っておけば死ぬんじゃないかと心配になるんだろう。研磨も昔から良く名前を心配していた。まぁ、それは俺もだけど。春巻きを頬張る名前の写真を研磨に送ってやれば、1分も経たずに「かわいい」と返信がくる。

「あ、そうだ。烏野のセッターって覚えてる?」
「どっち?」
「黒髪の、影山の方。研磨の配信で俺を見たって連絡くれたんだよね」
「え、ゲーム配信見たりすんの?」
「あはは、俺と同じ反応するじゃん。日向くんが教えてくれたんだって」
「そういうことか」
「んで、週末にご飯行こうってことになって」

ちょっと楽しみなんだよね、と笑う名前。その笑顔を見て「あぁ、やっぱりこいつはモテるな」と思った。名前は年下というか、後輩を可愛がる先輩タイプのようだ。名前はバレー部じゃないけど。

「名前に楽しみな予定があって何よりだよ」
「俺だって楽しみくらいあるよ」


20220213
シリーズ続編の更新を始めました。2014年に書いてた前編も書き直したい気もありますが、時が経ちすぎて読み直す勇気もあまりなく……。
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