01
「及川」
「なぁに?」
カシャ
昼休みの教室で携帯のカメラやデジタルカメラの電子的な音とも違うシャッター音がする。撮影者である名前が写真を確認し一言。
「…不意打ちでもイケメンでムカつくな」
「え!ひどくない!?」
「はは、冗談だよ」
「ねえねえ、俺にも撮らせてよ」
名前からカメラを受け取った及川は、これでもかという程慎重にカメラを構える。ここを押せばいいから、とボタンの説明をした名前が及川の顔を見て口を閉じた。真剣な顔、壊れ物を扱うような手つき、そんな及川の様子に名前が吹き出した。
「そんなに緊張しなくても」
「緊張するよ!だってこれ高いんでしょ!?」
「まぁ安いわけではないかな」
「ホラ!じゃあ名前ちゃん、ハイチーズ」
カシャ
日本人のサガか、反射的にピースをしてしまった名前は自分の引き出しの少なさに笑ってしまう。するともう一度、シャッターを切る音がする。
「良いの撮れた気がする」
「どれどれ」
「…ほら、良い!これ現像したやつ欲しい」
「まぁそれは良いけど」
「でもどうせなら名前ちゃんとのツーショットも欲しいな」
「じゃあ岩泉のとこ行って皆で撮ろうぜ」
結局、岩泉の他にも松川と花巻も集まった。教室を出て階段の踊り場で奇跡の一枚選手権だと盛り上がっているところを、偶然通り掛かった購買帰りの金田一、国見も巻き込まれとても賑やかな写真撮影会となった。予鈴が鳴るまで最大限に時間を使い行われたそれだが、及川は最初の目的であった名前とのツーショットも撮ってもらい大変満足していた。
嵐のように去っていった3年生を見て、金田一と国見は自分たちの教室へ戻りながら口を開く。
「ほんと仲良いな、あの人たち」
「そうだね」
「あのカメラ、名前さんが買ったんだろ?なんか意外だよな」
「まぁ、普通だったらしないかもしれないけどな」
「……及川さんのあの話な…名前さんもあぁ見えて及川さんのこと大好きだよな」
211214