岩泉を妬かせたい
「あはは、及川ばっかじゃないの」
「でもあれは仕方ないでしょ!」
「それはそうだけどさ、だからって!」
「ねえ名前ちゃん、気付いてる?」
「もちろん」
「うっわ、超いい笑顔なんですけど」
同じクラスで友人の及川と、休み時間の談笑をする。内容は、まぁ心底くだらない笑い話だ。その及川の気付いてる?という質問。何に気付いているかというと、ギリギリ視界に入り込む教室の入り口からむすっとした顔でこちらを見る俺の恋人の姿だ。決して顔を向けずに気付いていませんよという素振りで、なんとなく右手を及川の頭に乗せて意味もなくわしゃわしゃと撫でてやる。すると、フンッと視線を外し歩いて行ってしまった。
「ちょっと名前ちゃん!俺が岩ちゃんにどやされるんだからね!?」
「今日が月曜日で良かったな」
「うんそうそう…って違う!ちが、くないけど!ちゃんと岩ちゃんの機嫌を直しておいてよね!」
「任せとけって」
「なんか不安…」
「あー、さっきの岩泉ほんと可愛かった」
放課後、岩泉を教室まで迎えに行こうと廊下に出ると、タイミングが良いのか悪いのか彼が教室から出て逆方向へ歩いて行く姿が見えた。どこに行くんだろ。声を掛けずに、静かに後を追うとその足は図書室に入って行った。後ろからじゃ見えなかったけど、手には数冊の本があった。珍しいな、読書の秋?
「はーじめ」
「うお、」
「読書でも始めたの?」
「いや、授業で使ったやつで返却頼まれただけで……あ、」
「うん?」
俺の顔を見て何かを思い出したように声を漏らす。まぁ、大体は予想がつくんだけど。放課後の図書室はまだそんなに人がいなくて、閑散としている。俺の問い掛けに、「別になんでもねえよ」と返すがどう見てもなんでもなくはない。言ってよ、そう笑顔で言う俺に引く気がないことを悟ったのか、目線を合わさないまま口を開いた。
「……お前、及川と仲良いよな」
「そりゃあ同じクラスだしね」
「………あっそ」
か、かわいーーー!!!!何この子、もうここまで来たんだから言っちゃえばいいのに。
「妬いた?」
「、はっ!?」
「休み時間、こっち見てたの知ってる」
「おっ、まえ、ほんと悪趣味…!」
「否定はしない」
「うわ、ちょっ、」
「しー」
肩をトンと軽く押して、本棚に背中を預けさせる。岩泉の顔の横に両手を付けると、「抗議したいが大声を出してしまいそうだから抑えてます」と言わんばかりの表情で睨みあげてくる。
「そういうとこ、すごく可愛いから意地悪したくなるんだよな」
「…うるせ」
「可愛くないこと言っちゃうお口は塞いじゃいまーす」
「ちょ、んっ…ふぁ、」
半ば強引に唇を奪い、隙間に舌をねじ込んで口内を弄ぶ。ぎこちない動きで、俺に答えようとするところとか、本当に可愛い。薄目を開けてギュッと目を瞑る岩泉を見ていると、息が持たなくなったのか俺の肩を軽く叩いてくる。仕方なく口を離してやると、二人の間が銀の糸で繋がった。えっろ。
「…はぁ、誰かに、見られたらどうすんだっ」
「本棚で死角になってるから大丈夫かなって」
「お前…なんか及川に似てきた……」
「そう?」
息切れの一つもなく呆れた表情を見せる彼は、流石運動部と言ったところだろうか。しかし紅く染まった頬と、どこかとろんとした瞳に関しては普段の運動量とは関係ないらしい。そんな顔で見上げられると困るな、色んな意味で。
「はじめ、」
「……ここ図書室だぞバカ名前」
「…じゃあ早く帰ろっか。あ、聞きそびれてたけど、及川に妬いた?」
「誰が妬くかよボケ!」
「そんな大声で否定すんなよ!」
ぐぬぬ、今のは妬いたって言うタイミングじゃん。もう帰ろう、そう言って図書室から出ようと足を扉に向けようとする。
「おい」
「んー…っ、!?」
俺が振り返る前に岩泉に両手でブレザーを掴まれ、そのままぐいっと引かれたと思えば触れるだけのキスをされた。まさかの不意打ちに頭が着いて行かず、目を閉じることもなく寧ろ見開いて見ていた可愛い恋人のキス顔。
「妬いちゃ悪いのかよ」
「わ、悪く…ないです…」
「…こ、このボケが、帰るぞ」
自分からやっといて照れてるこの子超可愛い。俺の横をするりと抜け、さっさと帰ろうとする彼の手を掴む。
「…帰るんじゃねえの?」
「無理、トイレ行こう」
「はぁ!?待て、なにいって、」
「一が悪い」
「っバカ!バカ名前!」
「なんとでも」
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岩泉一が可愛すぎる(頭抱え)