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ツンデレ及川と付き合ってる


「徹ー」


隣の教室を覗いて、お目当ての人物の名を呼ぶ。数名の女子に囲まれていた彼は、間をすり抜けパタパタと駆け寄ってくる。女子の前での澄ました笑顔とは違う。例えるならご主人様に散歩に行こうと言われた犬みたいに、嬉しさと期待が込められている目をしている。でもきっと、徹の口から紡がれるのはその表情とは反対の、


「なに?俺になんか用なワケ?」


ツン、と言い放たれる台詞。付き合う前から感じていたけど、彼はツンデレという大層立派なポテンシャルをお持ちだ。初めは俺なんかしたっけと少し悩んだこともあったが、俺以外の人への態度を見ているとこのツンツンした口振りは好意からくるものだと気付いたわけです。実際そうだったし。


「現国の教科書貸してくんない?」

「…なんで俺が」

「あ、じゃあ岩泉のとこ行って」

「仕方ないから貸してあげる!」


早足で自分の机まで教科書を取りに行く徹。自分に用だと期待してたら教科書だった、と一瞬不機嫌になったが、他の人間の名前を出すとこうだ。なんで付き合ってるのかと聞かれれば、俺はツンデレが好きだから。口ではああ言っても、俺の言葉で一喜一憂する徹が可愛くて仕方ない。


「はい、使わせてあげよう」

「ありがと、徹」

「…当たり前でしょ」

「一緒にお昼ご飯食べようか、外でさ」

「別に、付き合ってあげてもいいけど」


そう言うけど、すごく嬉しそうな顔してる。可愛くて可愛くて堪らない。一旦教室に戻ってから、お弁当を持って中庭に向かう。ここは人が少ないから静かでいい。


「…なに見てんの」

「いや、可愛いなと思って」

「は!?なに、可愛くないし、嬉しくないし!」


隣で牛乳パンを頬張る徹を見つめていたら、気づかれてしまった。最初から隠すつもりも無かったけれど。思ってることを素直に言うと顔を真っ赤にしてぷんすこと頬を膨らませる。


「ああ、そう」

「………」

「なに?」

「…名前、怒った?」


予想外の言葉に吃驚した。徹は俺の返答を怒ったと受け取ったらしい。顔を俯かせることで若干上目遣いになる徹が心配そうに俺を見る。か、かわいい。


「…俺、名前の前でつい可愛くない態度取っちゃうけど、ちゃんと好きだよ」

「いや、」

「だから別れたくない、すき、名前が好き、だいすき」

「あのさ、」

「やだ、名前と離れたくない…!すき、すきだか…んっ」


丸っこい瞳を潤ませて、やだやだと頭を振る徹の口を自分の口で塞いだ。


「…徹、話聞いて?」

「………うん」

「一言も別れるとか言ってないでしょ?」

「……でも、」

「俺は徹が1番可愛いと思ってるよ」


目をぱちくりとさせる徹。そういえば、徹に直接可愛いって言ったこと無かったっけ。


「ツンケンした態度も俺の前だけって知ってるよ」

「………」

「俺の言葉で口では尖ったこと言っても、すごく嬉しそうな顔してる徹が可愛くて仕方ない」

「…や、やめて」

「可愛い、徹」

「…んっ、ん、ふ」


徹の後頭部を手で固定して口を塞ぐ。もっと、もっと、と差し出された舌先を絡め取る。薄目を開けて徹を見れば、眉を八の字に下げてなんとも可愛い表情をしているではないか。可愛い、可愛いなぁ。


「…ん、」

「徹、すっごく可愛い」


ひどく羞恥の表情をした徹は、ふいと目線を逸らす。俺にとって、徹のやることなすこと全部可愛く見えてしまうらしい。安心させるように、頭を髪の毛の流れに沿って撫でるとやっとこっちを見てくれた。


「…可愛い可愛いうるさいよ」

「徹の心配が無くなればいいと思って」

「………好き」

「うん、知ってるよ」


俺の恋人はツンデレでとっても可愛いです。



141019
ツンデレな徹くんと、付き合ってる二人を書きたかったんです
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