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魔王及川とものぐさドラゴン


※ものぐさ男子シリーズ主人公


豪華絢爛な魔王及川の城。玉座に膝を立てて座る大王の周りを囲うように白く大きなドラゴンが伏臥している。


「名前ちゃーんなでなでなで…あっつい!」


及川が猫なで声で名前ちゃんと呼ばれたドラゴンの頭を撫でると、ため息を吐くかのように口先から小さな炎を吐いた。はたから見れば拒絶ともとれるそれを気にもせず及川が頭を撫で続けると、名前は諦めたように目を閉じた。


「大王」

「ん、どしたの、クロちゃん」

「クロちゃんて……いや、まだ奴らは違う道違う道へと進んで行きます」

「あー!もうなんで!」

「なにか手を打った方が早いかと…」

「じゃあ俺が行ってきてあげる」


側近の黒尾が声のした方を見ると、そこには大きなドラゴンではなく頭に2本の角を携えた一人の青年が立っている。彼はどっこいせ、と玉座の肘掛けに腰を掛けた。


「わー、名前ちゃん久し振り!」

「うん」

「なんで最近ドラゴンのままだったの?」

「喋るの面倒だったから」

「つらい」

「で、鉄朗、あいつら今どこら辺にいるの?」


先ほどまで大きなドラゴンだった名前が、人型に姿を変えていた。黒尾の水晶を覗きながら「あー、まだこんなとこにいんの」と笑う名前に「笑うとこじゃないよ!」と及川はぷんすかと頬を膨らませる。


「及川、どうする?俺がここまで連れてくる?」

「名前ちゃんが飛んで、ってこと?」

「おう、時間かからないし」

「ダメだよ!名前ちゃんに乗っていいのは俺だけなんだからサ!」

「なんだそれ」


そうは言いつつも、満更でもなさそうな名前。名前は別に世界征服を企んでいるわけでも魔王及川に洗脳されているわけでもない。ただ、気を遣わずともちょっとやそっとじゃ傷付かないことが楽だった。それに加えて、及川は名前を一番に信頼し、可愛いかっこいいと盲信的に愛情を注ぎまくる。それは遠い昔から変わらない。


「ていうか名前ちゃん、飛雄に会いたいだけじゃないよね?」

「そんなことないよ。お腹空いてるのもあるし、ちょっと運動したいなって」

「名前ちゃんダウト!ちょっと運動したいとか、名前ちゃんが言っても違和感しかないよ!」

「俺だって動きたい時くらいある」

「あとお腹空いたってどういうこと!あいつら食べる気だったの!?」

「俺、ドラゴンだし」

「岩ちゃんとか絶対美味しくないデショ!城の中の方が美味しい物食べれるよ!」

「ちぇ」

「舌打ち!」


黒尾はその光景を眺めながら「行きたきゃ行けばいいのに」と思った。しかし、口にも顔にも出さないが名前の優先順位の最高位にはこの魔王及川がいるということに気付いて一人納得したのだった。


「じゃあクロちゃん行ってきていいよ」

「は?」

「俺より先に倒したらタダじゃおかないよ!」


黒尾は己の損な役回りを恨めしく思いつつ、なかなか城まで辿り着こうとしない主人公様御一行の様子を見に行く羽目になった。「いってら」と手を振る2人にどうしようもない苛立ちが芽生えたが、それをなんとか抑え込んで城を出て行く。


「はぁ、暇になっちゃったなぁ」

「牛乳パンをご所望ですか、大王様?」

「食べたい食べたい」


名前がパンパンと手を叩くと、召使いと思わしき人物がやけに豪華な皿に牛乳パンを乗せて持ってきた。その牛乳パンをひとつ手に取り、口へ運ぶ。


「岩ちゃん早く帰ってこないかな」

「そうだね」


主人公様御一行のうちの一人、及川の元右腕だった岩泉を思う。特に城内で争いがあったわけでもなく、「なんかあいつムカつくから」と言い残して出て行った。実際それが事実であるから、名前も引き留めることも連れ戻すことも出来ずにいた。


「名前ちゃんは出て行ったりしない?」

「出て行って欲しい?」

「やだ」

「貴方が追い出さない限りは出て行ったりしませんよ、俺は」


目を細めながらそう言う名前に、「岩ちゃんには世界を半分あげるし、名前ちゃんには残りの半分の世界を持ってる俺をあげるね」と言って及川は笑うのだった。


140720
書きたかったFHQ!白い竜はサクソンイメージで!及川さん誕生日おめでとう!
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