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21


「お前、そんな顔だったっけ」

「え、そうだよ!?開口一番になに!」

「そっか」


自分の気持ちというものを認識してから数日。だからと言って、特になにも変わったりはしない。及川の顔を見ることが多くなったくらい。


「名前ちゃん、最近なんか変だね…?」

「俺が変なら及川も変だよ」

「それは否定しない」

「 ……俺やっぱり学校休むかな」

「待って待ってダメだよ休ませないから!」


素早く及川が引き返そうとする俺の右手を取った。チッ、つい舌打ちが出る。なんせ今日は球技大会だ。面倒くさいことこの上ない。朝から及川と登校しているのも、行事があるから朝練がないためだ。


「名前ちゃんは俺と一緒にバスケやるんだよ」

「決定事項だ…」

「諦めよ?」

「及川、俺の肩外して」

「発想が怖い」



▽△▽△▽△



「勝つぞー!」

「おー!!」


そうして始まった青葉城西高校球技大会。優勝者には購買の割引券が貰えるらしい。購買利用者が多いのか、現金なことにやる気に満ち溢れているこのクラスは、女子バレー、男子サッカーと、今のところなかなかの好成績を収めている。


「…………」

「名前ちゃんの顔がお葬式」

「いいか、今から俺は桜木花道だ」

「名前ちゃん大丈夫?」

「スポーツマンですから」

「…大丈夫じゃない」


チームで同じ色のビブスを付け、コートに立つ。さっき委員長に「手を抜くなよ」と釘を刺されていた名前ちゃんは、言葉の裏に潜む勝てよという真意(脅しともいう)を察したようで引きつった笑顔のまま「…ウィッス」と返していた。初戦はマッキーがいるチームだ。多くの観客が見守る体育館に響き渡るホイッスルが、試合開始を告げた。


「流川!」

「ブフォッ」

「及川だってば!」


名前ちゃんがそう叫んでゴール付近にいる俺にパスを回す度に、俺をマークしていたマッキーがご丁寧に吹き出してくれるもんで簡単に得点することができた。そのまま試合は進み、余裕のある得点差で勝利した。運がいいのかシード枠のため、次の試合がもう準決勝である。


「俺はマッキーの笑いのツボが理解できないよ」

「でもそのおかげで勝てたから良しとしよう」

「うーん」

「次は及川がポイントガードやってよ、セッターなんだし」

「じゃあ名前ちゃんは試合のどこかでスリーポイントシュートやって」

「まあいいけど」


等価交換じゃないだろ、と笑う名前ちゃん。朝、あんなに愚図ってたとは思えない。名前ちゃんがご機嫌なまま、準決勝の試合が始まった。さっきよりもギャラリーは増え、たまに女の子に名前を呼ばれるから隙を見て手を振ったりもする。名前ちゃんにボールを回すと、ドリブルでディフェンスを掻い潜りレイアップシュートで得点する。ギャラリーから歓声が上がるが、彼は現役帰宅部なんです。


「流川、顔がにやけてるぞー」

「マッキー変な野次やめて!及川だから!」


それからは取って取られてを繰り返し、試合終了1分前で同点である。ボールを持ったまま、誰にパスをしようかゴール付近を見渡すがチームの三人は全員マークされている。このまま俺が打てばいいんだけど、ここで名前ちゃんが得点したらかっこいいなあという考えが頭を過った。名前ちゃんを見ると、俺に向かってちらりと右手を挙げた。寄越せという意味だ。素直に名前ちゃんにパスをする。あ、スリーポイントエリアだ、そのことに気付いたのが10秒前。名前ちゃんの手から放たれたボールは放物線を描き、バックボードに当たることもなく綺麗にゴールに吸い込まれた。そこで、試合終了を告げるホイッスル。


「名前ちゃんかっこいいいい」


俺の歓声を皮切りに、体育館が沸いた。名字先輩!という女の子の声も聞こえ始める。


「名前ちゃん名前ちゃんほんとかっこいい死んじゃう」

「死ぬなよ」


目に焼き付いた名前ちゃんのシュートを思い出して悶々とする。それから少し休憩を挟んで、決勝戦を行ったが僅差で負けてしまった。相手チームのメンバー編成が経験者ばかりだったのと、前の試合で名前ちゃんのヤル気スイッチが完全にOFFになったことが敗因だと思う。名前ちゃんは「こっちはバレー部とサッカー部と卓球部と美術部!俺は帰宅部ですよ!いい結果なんじゃないんですか!」って逆ギレしてた。普通に委員長褒めてたよ。


「及川、飲み物買いに行くべ」

「うんー」


行事らしいガヤガヤとした賑やかな雰囲気の中、食堂に設置された自動販売機へ向かう。廊下の窓から見えるグラウンドでは野球が行われていた。あ、岩ちゃんが打った。


「岩泉、かっこいいな」

「男らしいよね、岩ちゃんは」

「お前とは違う種類のモテるってやつなんだろうな」

「どういうこと?」

「岩泉が好きな女子は、好きだから想ってるだけでいいみたいな?知らないけどさ」

「俺は?」

「及川が好きだから一緒にいたい、って感じ」

「名前ちゃんは?」

「俺も好きだから一緒にいたい……って、ん?」

「え?」

「いや、なんでもない。飲み物買いに行こう」

「ん?」


窓枠から手を離して、廊下を歩いていく後ろ姿を追い掛ける。どうしたんだろう、名前ちゃん。



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チームに経験者がいないのは、クラスで参加競技を決める時に誰かが「どうせなら普段やらないことやろうぜ」っていう部活縛りを掛けたからです。
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