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及川が俺の頬についたクリームをどうこうした、っていうあの日から数日が経った。及川とは別段いつもと変わらず接している。それは別にいいんだけど、あの時なんであんなにも全身がそばだったのか。そんな初めての感覚につい逃げてしまった訳だけど。で、少しは考えてみたけど、面倒になったから考えるのはやめま、


「おい」

「え?なに、岩泉」

「なにじゃねえよ、なんで一方的に話しといて結論がそれなんだよ可笑しいだろ」

「だってえ」

「だってじゃねえよ」


至極面倒臭そうに眉を寄せる岩泉だが、なんだかんだ言って結局聞いてくれる。こいつはそういう奴だ。俺が唇を尖らせていると、岩泉はなにかを思い出したように「あ」と短い声を洩らす。


「花巻が言ってたんだけど」

「おう」

「及川が…キス、したいって言ってきたらお前はどうする?」

「別にいいけどって言う」

「口だぞ」

「うん」


岩泉がなにかを考えるような素振りを見せる。この子、自分で言っておいてキスって単語で少し照れてる。純情少年岩泉一。


「じゃあ、俺がお前にキスしたいって言ったら」

「岩泉がしたいっていうなら」

「別にしたくねーよ」

「じゃあなんなの」

「例えだろうが!お前にキスしたいのは俺でも花巻でも松川でも誰でもいいんだよ!」

「ちょっと待って!二人でなんの話してるの!?及川さんそんなの絶対許しませんからね!」

「テメェどっから沸いた!」

「ここ俺のクラス!さっきまで一緒に居たじゃん!購買行ってきただけだし!」


いきなり乱入してきた及川に容赦なく怒号を飛ばす岩泉。お馴染みの牛乳パンを持った及川は、辺りをキョロキョロと見渡し何かを探している。


「お前の椅子なら飯田が持ってったよ」

「あいつ!持ち主が帰ってきたっての!名前ちゃんお膝貸して!」

「やだよ、お前重いもん」

「ちょっと傷付いた!名前ちゃんが頑張ってください〜」

「うわ、普通に座ってくるし…あんまり重くないわ」

「半分くらい空気イス状態だもん」


面白がったクラスの女子に写真を撮られている。それを岩泉が呆れたように眺める。


「さっきなんの話してたの?」

「お前の悪口」

「……俺、岩ちゃん怒らせるようなことしたっけ?」

「あ、そうだ。俺が及川にキスしたいって言ったらどうする?」

「んえ!?したいの!!?する!?しよ!!」

「まぁ例えだけどさ」

「例えかぁ」

「あー、なんか分かったわ」


黙って見ていた岩泉にそう言うと、ひとつ溜め息を吐いて「お前ら面倒くさいから帰るわ」と自分の教室に戻って行った。


「なんかの心理テストとか?」

「いや、別に」

「なんなのさ!」


今だに俺の上から動こうとしない及川の背中に、頭を預ける。きっと、俺は及川のことが好きってことになるんだろうな。


「はぁー、そう」

「名前ちゃん、ほんとなんなの!」



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