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「な、なんかお前無理!!」
「んえっ!名前ちゃん!!?」
ガタッとイスから立ち上がって大股で教室から出て行く名前ちゃんと、取り残されて唖然とする俺。今さっきまで2人でお昼ごはんを食べてた。名前ちゃんが食べていた生クリームあんパンのクリームを頬につけていたから、「名前ちゃん、ほっぺにクリームついてる」って俺が人差し指で拭ってそれを、
「……舐めたのか」
「うん」
「お前さ、同じこと名前にされたらどうだ?」
「お赤飯を炊く」
「この質問をした俺が馬鹿だったよ」
マッキーに言われたとおりに想像すると幸せになった。名前ちゃんが俺の頬についてるって指で拭ってそのままそれを舐めるって、そんな、恋人同士みたいだよ。
「及川の名前好きって恋愛感情だろ?」
「………う、うん、そうだよ」
「そうか。案外フラグ立ってるかもな」
「フラグ?」
「イベント発生の条件みたいなやつ」
「?」
「…だから、希望あんじゃねーのってこと!」
「えっ」
「だって及川、考えてみろ。前の名前だったらそんなクリームごときであんな反応するか?」
「……しない?」
「思い出せ、その時どんな顔だった」
あの時の名前ちゃん、あの時の名前ちゃん。いきなり立ち上がったことに吃驚して俺が目をぱちくりさせてると、名前ちゃんは額を手のひらで押さえながら、
「……顔、赤かった」
「それだよ、それ」
「あああ名前ちゃん可愛いありえない!」
「いいぞ及川!このまま押していけ!」
「マッキー、俺頑張るよ!」
3組の教室でガッツポーズをする俺とマッキーを、まっつんが笑いながら見ている。
「名前、岩泉んとこだって」
「えっ!」
「迎えに来いってよ」
「うん、俺行ってくるね!」
2人に手を振って5組に向かう。扉を開けて「名前ちゃーん!」と語尾を伸ばしながら彼の名前を呼ぶと明らかにげって顔をされた。でも及川さん気にしない!男の子だから!
「名前ちゃん、帰ろ」
「あー…おう……?」
「及川、名前をあんま困らせんなよ」
「おっけーおっけー」
岩ちゃんの机の前で、壁を背にしゃがみ込んでいた彼に手を差し出すと、頭を傾げながら俺の手を取る。軽く手を引いて名前ちゃんを立ち上がらせて、そのまま教室から出た。
「名前ちゃん」
「ん」
「あの、ああいう反応されると、変に期待しちゃうんですが」
まだ休み時間だからか、生徒がまばらにいる廊下。後ろにいる名前ちゃんを振り返らずに言葉だけを投げ掛ける。
「したら?」
まさかの返答に反射的に振り返ると、名前ちゃんがジト目で「んべ」と舌を出しながら立っている。え、なんて言った?どういう意味?なにその舌超かわいいね?それはしてやったり顔なの?言いたいことが後から後から出てくる。周囲の雑音が聞こえなくなる瞬間って試合以外でもあるんだなあ。言葉に詰まる俺の横を通り抜け、すたすたと歩いていった名前ちゃん。
「ちょ、名前ちゃん!」
「まだお腹空いてるから購買行く。及川も行く?」
「……行く!」
「うん」
そして、そう頷いた名前ちゃんの満足そうな笑顔に、俺はまた頭を抱えることになったのだった。
(いい加減くっつけばいいのにな)
(花よ、既にくっついてるような奴らだろ)
(そう言えばそうだな)
141015