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「頼む、名字!この通りだ!」
購買でパンを買って教室に戻ると、名前ちゃんの席の前で男子生徒2人が両手を合わせて何かを頼んでいる。あー、と眉を寄せる名前ちゃん。これは困ってるな。
「どうしたの?」
「……及川」
「及川!お前からも頼んでくれ!」
「え、なに?なにごと?」
「それが…」
2人の必死な顔にただならぬ事態だと思い、真剣に話を聞いた…が、それはなんてことない内容で。つまり、クレーンゲームでどうしても欲しい景品があるから名前ちゃんにとって欲しいって話。名前ちゃんクレーンゲーム超得意だから。自分たちでやるよりも安く確実に、ってことだろう。
「頼むよ、名字!」
「…ゲーセンまで行くのがめんどくさい」
「いいじゃん、行ってあげなよ名前ちゃん」
「及川、お前他人事だと思って…1人で美少女フィギュア二つ取ってくるってなかなかキツいだろ」
「あー、美少女フィギュアね」
「分かった、じゃあ及川が着いて来るなら取りに行っても良いよ」
「俺?別にいいよ、今日部活休みだし!」
「よっしゃ!今度お礼に飯奢るわ!じゃあとりあえず2000円ずつ渡しておくな、足りなかったら明日払う」
「飯奢らなくていいから、1000円ずつ俺にくんない?それで足りると思う」
名前ちゃんの言葉に2人はぽかんとしながら、ポケットから財布を取り出して千円札を一枚机の上に置いた。2人に「名前ちゃんがクレーンゲーム得意って誰から聞いたの?」と聞くと「花巻」と即答された。名前ちゃんが少しイラっとしたのが分かる。ああ、マッキーの好感度が急降下しているよ。そして放課後、教えられたゲームセンターまでやって来た。
「あ、ラッキー」
「なにが?」
「見てな」
言われた景品の台に、500円を投入した名前ちゃん。左右に台の上にそれぞれフィギュアの箱があって、それを台から中央に落とすっていうよく見るクレーンゲーム。箱にはプラスチックの輪が付けられていて、そこに引っ掛けるのかな?名前ちゃんはクレーンを動かして箱を二回時計回りに回転させる。その輪が付いている面を下にして、そのまま持ち上げ…あ、落ちた!そのまま、二つ目もGETする名前ちゃん。500円で難なく二つ取った。
「え!?今のどうやったの!」
「重心をずらして落ちやすくすんの」
「名前ちゃん、やっぱり上手いね」
「そ?……あ」
短く声を漏らした名前ちゃんにどうしたの、と視線の先を辿る。がやがやと騒がしいゲームセンターの中で、上下真っ黒の学ランに身を包んだ2人がクレーンゲームの景品を凝視している。烏野の主将君と爽やか君だ。なんでこんなとこにいんの。名前ちゃんが2人のいる方向に足を動かそうとしているのが分かって、反射的にブレザーの裾を掴んだ。キョトンとした顔で俺を見て、「ちょっと挨拶するだけだよ」と笑ってそのまま歩き出す。
「こんにちは」
「あ、名前くん…と、青城の」
「インターハイ予選以来ですね、あの時はどうもお世話になりました」
「…どーもー」
にこりと笑っている名前ちゃんとは裏腹に、俺は今ものすごくむすっとした顔をしてるんだと思う。主将君の鼻につく笑顔もムカつくけど、爽やか君が名前くんって呼んでることの方がムカつく。名前ちゃんは俺を隠すように自分の背中に回して「こっちこそウチのがお世話になりました」と笑顔で返した。ウチの、って言い方なんかイイ!
「スガくん、これ欲しいの?」
「…そうなんだけど、俺こういうの苦手でさ」
「……エビの人形ね」
なにエビの人形って。これ可愛いの?ああ、烏野高校では可愛いって言うのかもしれない。知らないけど。名前ちゃんはそれを100円でゲットして、爽やか君に手渡した。
「この前のお礼」
「えっ、いいの!?ありがとう名前くん」
「名前ちゃん、この前のってなに」
「及川が乱入した勉強会。3人に奢ってもらったから」
「ああ、あれね」
そんなこともあったな。そうだ、確か飛雄とチビちゃんがいて……なんかムカついて来た。掴んだままのブレザーの裾を二回程引っ張ると、名前ちゃんは「じゃあ、また」と右手を上げて、そのまま2人の横をすり抜け出口に向かった。
「あそこの主将君、食えない奴っぽいよね」
「…名前ちゃんは爽やか君の方が好きだもんね」
「なに、ヤキモチってやつ?」
「え!?」
「そっかそっか、ふーん」
「な、なに名前ちゃん、どうし、ごめん」
「なんで謝んの?別に怒ってないよ、俺」
隣を歩く名前ちゃんの表情は、とても楽しそうなものだった。
「1500円余ってるし、ファミレスでも寄ろうか」
「でた、名前ちゃんのちゃっかり」
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及川フィギュアもうすぐ記念です!取るぞー!そして大地さんの最初の印象は黒尾と同じです。