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15


※下世話



「名前ー、さっきぶり」

「お邪魔しまーす」

「ん、いらっしゃい」


どうも、花巻です。テスト期間が近づいてきて部活も活動中止になる時期に行われる恒例行事「名前の家で勉強をする会」が今回もいつも通り行われる。松川と俺は、一旦家で着替えてお菓子と飲み物を買ったのちに名字家の敷居を跨いだ。


「及川と岩泉は?」

「まだ来てないよ。コップとか用意していくから、俺の部屋に行ってていいよ」


俺たちはその言葉を待っていた。若干わざとらしかったような気もしなくもないが、二人揃って頷き何度目の訪問になるかわからない2階の名前の部屋へ向かう。


「松、どうするよ」

「やっぱりベッドの下じゃね」

「それもそうだな」


カバンの中から持参したブツを数冊取り出して、いかにもな感じでベッドの下に忍ばせる。まぁブツって言っても所謂エロ本なんだけど。以前、名前の部屋を物色した時にそう言った類のものが一つも無くてつまらなかった。高校生男子が、これでは可哀想だと同情した俺たちからの選別である。といいつつ、実際はなにか面白いことになんねーかな程度のいたずらだ。


「あれ、岩ちゃんまだ来てないんだ〜」

「及川」

「二人してなに見てんの?」

「いや、別に」

「なにちょっと!わざとらしいんだけど!俺も見た……」


名前のベッドの前に立っていると、遅れてやってきた及川が俺と松川の間に入ってくる。


「………」

「まぁ、名前も男の子だからな」

「そうそう」

「…爆乳人妻の性生活」


無表情で本のタイトルを読み上げる及川に、吹き出してしまいそうになるのを必死に堪える。ちなみにこれ俺の私物ね。


「…名前ちゃんがこれを読んでいるってことに俺は凄く興奮する」

「………あ、そう」

「でもこれ名前ちゃんのじゃなくてマッキーのでしょ?」

「え、なんでバレた」

「まさか及川は俺の趣味を知ってるのか」


及川は本をパラパラと捲りながら、ふふんとどや顔をする。なんでお前がどや顔をするんだ。


「俺が名前ちゃんの部屋の変化に気付かないとでも思った?」

「うわ、きも川」

「ひどいな!あと、名前ちゃんは服を着ている方が好きなんだよ」

「なんだと…!」

「それは初耳なんだけど」

「あと名前ちゃんなら、本棚の一番上の文庫本の列と棚の隙間とかに入れるね」


及川に若干引きつつ、言われた通りの場所に手を突っ込んでみれば、明らかに文庫本とは違う感触のものが右手に触れた。俺の反応に二人が驚く。恐る恐る隙間から引きずり出したそれは俺たちの想像していた物ではなく、紺色の布地で覆われていた。どうしようかと思い、とりあえず及川に手渡す。


「アルバムじゃない?」

「あぁ、それっぽい」

「彼女との写真とかじゃないの、超見たいんだけど」

「名前ちゃんの彼女!?俺は見たくないよ!」

「そう言わずにさ、乗りかかった船だよ及川」

「そうそう、男らしく開けって」

「なにかあったら二人が責任取ってよ!?」


うーんだとかでもだとか言って渋る及川を急かすと、意を決したようで表紙に手を掛け勢いよく開く。中身が空の写真とか昔飼ってたペットとか反応に困るものではないことを心の隅で祈って写真を見ると、そこにはなんとなく既視感のある人物が顔を並べていた。


「これ、お前ら?」

「ああ!名前と及川か!」

「及川、これ小学生くらい?及川?」

「…………俺今すげえ嬉しい」

「よかったね、彼女とかじゃなくて」

「ねえちょっと君たち何を見てんのかな?」

「あ、名前」


扉の前で、怪訝そうな顔をしながらペットボトルのお茶と五つのコップを乗せたお盆を持って立っていた。麦茶かな。及川の手の中にあるものを認識すると、珍しく少し焦ったようにローテーブルの上にお盆を置く。


「な、なんでそんなん見てんの!?」

「お前がベッド下にエロ本隠さないからだよ」

「ちょっと意味わかんないし、及川がすげー嬉しそうな顔してるからやだ!俺がめっちゃはずかしいやつじゃんそれ!」

「これいつ頃のアルバム?」

「小学生の頃のだよ…って及川にやにやすんなや」


名前が不機嫌そうに眉を顰めるが、きっと今の及川から見たら可愛くて仕方ないんだろう。大好きな名前が小学生の頃の自分との写真をアルバムにまとめて仕舞ってるんだもんな。しかしこの二人は小さい頃から整った顔してんのか。


「及川との写真しかないな」

「一緒に遊ぶような友達は及川と岩泉くらいしかいないからな、その頃の俺は。数ページ後に岩泉が登場するよ」

「その頃からゾッコンかよ、末恐ろしいな」

「その結果がこれだよ」

「それ悪口だからね!?」

「アルバムはいいよもう!お前ら勉強しに来たんだろ!勉強しろ!」

「あ、じゃあこれ名前にやるよ」

「あ?」


手に持ったままだった本来いたずらに使う予定のエロ本を名前に渡してから、テーブルに持参した勉強道具を広げる。勉強する大切を整えた俺たちは、至って真面目に(若干一名そわそわしている人がいるが)教科を見つつ名前を観察することにする。受け取った本を凝視した名前は、ぼすっとベッドに座ってページを捲り始めた。え、普通に読んじゃうの?それから数分、ページが捲れる音だけがこの部屋にやけにはっきりと響き渡った。


「俺に花巻の趣味は理解できなかった、返すよ」

「ねえなんでお前ら俺の趣味知ってんの?」

「ていうか名前、こういうので興奮する?」

「いや、別に」

「聖人君子かよお前は」

「じゃあなにで興奮すんの?やっぱり名前は着衣が好きなの?」

「着衣っていうか、脱ぐ途中かな」

「なにそれ名前ちゃん俺に詳しく教えて」

「ただ運動した後の着替えがえろいなって思ったんだよ、及川の」


そう爽やかに笑いながら話す名前に俺と松川は目を丸くしたし、及川は両手で顔を覆ってフリーズするし。なんなんだよ、こいつ魔性かよ。早く来てよ岩泉。



(わり、遅くなった…なんだよこの状況)
(岩泉よ、ここは爆心地だ)
(は?及川どうした、とうとう壊れたか)
(だいたい合ってる)
(って名前、そんな本見んなっつったべ)
(これ、花巻のだよ)
(…松、俺は原因が少し分かった気がする)
(奇遇だな、花)


140817
岩ちゃんは主人公に無自覚に甘い
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