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「あれ、名前ってピアス開いてたっけ?」
「開けたの」
「ふーん、いいんじゃね」
「うん」
名前ちゃんの左耳できらりと光を反射させるピアス。そのキュービックジルコニアのスタッドピアスは俺が一年前に名前ちゃんへ購入したものだ。側面にシルバーでさりげない装飾がしてあるそれが名前ちゃんに似合うと思って購入したけど、ピアス穴の存在がないことに気付いてお蔵入りしていたやつね。
「名前、前まで確実に痛いから絶対開けねえっつってたじゃん」
「……松川、今それ言うな」
「え、名前ちゃん」
「え?なに?なんかマズイこと言った?」
「いや、そんなことないんだけど」
「そんなことあるよ!」
「あ、ピアス開けるきっかけは及川?」
なるほどねぇ、と語尾を伸ばしながら対岸の火事だとまっつんは教室から出て行った。名前ちゃんが何か言おうと口を開いたところで、チャイムが鳴り教科担が入ってきたから大人しく椅子に座り俺に背中を向けて黒板を見る。
▽△▽△▽△
「…及川」
長いの授業が終わり、放課後。気まずいことになっていた及川に、なんて声を掛けたらいいかも分からないまま名前を呼んだ。目があった及川は、動揺していますと言わんばかりの分かりやすい顔をしていた。
「あのさ、」
「俺、名前ちゃんに無理させた?」
「え?いや、別に…?」
「………でも、嫌だった?」
「うーん…って及川、大丈夫だから、泣くな」
泣きそうな顔の、というか目に涙を浮かべている及川。「名字が及川を泣かせたぞ」というクラスメイトの声にうるせえぞと投げ掛け、及川の手を掴んで教室の外に出た。そのまま、普段から使う人が少ない西側の階段まで歩く。
「及川」
「…えぐ、名前ちゃん」
「泣かなくていいよ」
「っ、ごめん、ごめんね名前ちゃん」
「うん」
「断ってくれて、よかったのに」
「別に嫌じゃないよ」
「おれ、名前ちゃんに、嫌な思いさせたく、ない…」
えぐえぐと嗚咽を漏らす及川。うーん、どうしたらいいんだろう。そっと両腕を広げてみると、及川は驚いたような表情で俺を見る。頷いて見せると、恐る恐る抱きついて来る。こいつ、ベタベタするの好きだから良いかと思ったんだけど、違ったのか。
「……あー、かっこわるいとこ見せたくなくて」
「………!」
「でも、ピアス似合ってるべ?」
髪の毛を耳に掛けて笑って見せると、俺の首筋に顔を埋めながらうんうんと頷いた。通常運転に戻ったようだ。
「…名前ちゃん、かっこいい」
「知ってる知ってる、よしよし」
「んふふ、名前ちゃん大好き」
「付き合う?」
「え」
「はは、冗談だよばか」
それから、岩泉に電話でもう部活始まるぞとどやされ、俺にくっついたままの及川を体育館まで送って行った。
「やっほー、まっきー」
「及川を送り届けに来た」
「あ、及川と名前…って、なにその体制」
「なんて言ったっけ、こういうの」
「だいしゅきホールド?」
「そう、それそれ」
「ていうかさ、見た目超華奢なのに70キロの男をだいしゅきホールドして歩いてくるお前が凄いわ」
「帰宅部のエースだからな。じゃあね、部活頑張れよ」
(ねえ、及川と名前って付き合ってんの?)
(ううん)
(あ、そうなの)
(まだ、ね!)
(なるほど)
140808
泣き虫川