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12


※及川姉設定



「あ、及川おかえり」

「んあ、え、名前ちゃん!?」

「おばさん、ごちそうさま」


帰宅してリビングに向かうと、何食わぬ顔で名前ちゃんが俺を見た。そしてお茶碗の上に箸を揃えて、両手を合わせる。


「名前ちゃんどうしたの!?」

「遊びに来た」

「俺が部活で居なかったのに!?」

「だめ?」

「だっだめじゃないけどサ!」


お母ちゃんのさっさとシャワー浴びてご飯食べちゃいなさいという言葉に、俺がどういう反応をしたら正しかったのかがいよいよ分からなくなってきた。名前ちゃんをこのまま放っておいてもいいのか一瞬悩んだが、俺が居ない時からここに居たんだしなにも問題ないじゃないか。


「名前、プロレスごっこしよう!」

「いいぞー、猛」

「ちょっと猛!名前ちゃんに痣でも作ったら怒るよ!」

「徹うるさい!名前は徹よりいけめんだって、母ちゃんが言ってた」

「はは、それはどうかな」


シャワーを浴びて、ご飯を食べている俺の後ろで甥っ子の猛が名前ちゃんと遊んでいる。及川の血がそうなっているようで、父ちゃん母ちゃん姉ちゃん、そして甥っ子の猛も例に漏れずみんな名前ちゃんが大好きだ。…血は争えないんだなあ。姉ちゃんが猛を迎えに来てから、俺の部屋で名前ちゃんは雑誌をパラパラと捲っている。


「名前ちゃん、今日はどうしたの?家でなにかあった?」

「いや、別になにもないけど来ちゃだめだった?」

「むしろ大歓迎だけど!」

「あ、及川いた」

「月バリ?」

「うん」

「その写真、あまり写りが良くないよねぇ」

「そんなことないよ、俺は好き」


え、ほんと、なにかあったんじゃないの名前ちゃん。長いまつ毛を強調するように、伏し目がちに雑誌を見やる彼に少し動揺するが、それよりも嬉しいとか恥ずかしいとかいう類いの感情が勝る。


「あ、そろそろかな」

「なにが?」

「及川、誕生日おめでとう」

「へ?」


先ほど名前ちゃんが視線を向けた掛け時計を見ると、二本の針は12を指していた。ぽかんとする俺を名前ちゃんが「間抜けヅラだぞ」と目を細めて笑う。その笑顔に見惚れる暇もなく、無造作に置かれたスマホからポンッとメッセージの受信を告げる控えめな通知音が、ひとつふたつと連続して鳴り出す。メッセージを確認すると見知った仲間からのおめでとうメッセージだった。


「よかったね、及川」

ーパシャ

「え、なに?」

「泣きそうな顔してたから、記念に」

「記念って!」


こっちが感動で少しうるっと来てるっていうのにさ!名前ちゃんを手招きで隣まで呼んで、スマホのインカメラで写真を撮る。メッセージの返信に添付すると、いち早くマッキーが「そっちもおめでとうか?」と返して来たけど残念ながらこっちはおめでとうじゃないです。


「及川、なにか欲しいものあるか」

「誕生日プレゼント?」

「思い付かなくてさ、どうせなら及川の希望を聞こうと思って」


名前ちゃんは毎年なにかしらのプレゼントをくれる。去年は「永久、不滅っていう花言葉が及川っぽいよね」とサンスベリアを貰った。ガーデニングとか植物を育てることが趣味の名前ちゃんママの影響か、名前ちゃんも結構植物に詳しい。窓際に置かれたそれは、生き生きした緑の葉を生い茂らせている。俺がこの部屋に一人の時には、サンスベリアを名前ちゃんって呼んで可愛がっているのは内緒だけどね。突然なにか欲しいものはないかと聞かれてもパッと浮かぶものでもなく、うーんと唸る。


「あ、」

「なにかあった?」

「なんでもいい…?」

「俺に手が届くものなら」


記憶を頼りに、隅に置かれている整理ボックスの中から小さな袋を探す。箱から取り出したシンプルにラッピングされていら小さなこれを、きょとんと頭にクエスチョンマークを浮かべる名前ちゃんに渡す。可愛い。


「なにこれ」

「名前ちゃんにお願いがあるんだけど」

「あ、うん、なに?」

「……俺にピアス開けさせて、名前ちゃんの耳に」

「あぁ、別にいいけど」

「えっ!?いいの!?ピアスだよ?穴だよ?」

「やってほしいの?ほしくないの?」

「ほ、ほしい!」

「じゃあこれはなに?」

「それは、えーと、去年の名前ちゃんの誕生日プレゼントにしようとしたピアス、ですね」


買ってから名前ちゃんにピアスの穴がないことを思い出して、今の今まで仕舞いこんでいた。


「じゃあ明日開けるべ」

「うん…!」

「他になにか買ってほしいものはないのかお前」

「ないね!」

「…あ、そう」



△▽△▽△▽



「……名前ちゃん、いくよ」

「…うん」

「…………」

ーばちん

「…っン、いっ、たぁ」

「…終わったよ、名前ちゃん」


……なんてやり取りがあるハズもなく。買ってきたピアッサーを、消毒した名前ちゃんの耳朶に当てながら逆に俺が躊躇していた。


「いいよ、及川」

「う、うん」

「大丈夫だってば」

「…でも、」

「早くいけって」

「え、あ…うん…うん」

ーばちん

「ほら、大丈夫だったべ?」

「……うん」


名前ちゃんかっこよすぎじゃないかな。ていうか人にピアス開けるのってこんなに怖いの!?予想以上だよ!?でもでもなんというか、あの、支配欲が満たされるような、ゾクゾクってした!そう言えば、名前ちゃんに「…ああ、お前ってそういうタイプの人だったの」と若干引かれた。


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お誕生日おめでとう及川くん!
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