09
「こんな感じでいいんじゃない?」
「うん、ごはん系もデザート系も良いバランスだと思う」
「じゃあこのメニューで委員長に提出しておくね」
家庭科室。名前ちゃんがクラスの料理部の女子とメニューについて話している。
「まさか名字が料理も出来るとはねぇ」
「これは結構好きなんだ」
「じゃあ逆になにが出来ないの?スポーツ…は出来るよね。じゃあ楽器とか?軽音部がライブやるらしくて楽器できる人探してたよ」
「ギターとサックスなら出来るな、あとピアノ」
「は?マジで?ライブ出たら?」
「やだよ、めんどくさい」
そうやってめんどくさがる、そう言って笑う二人を家庭科室の丸椅子に座り頬杖をつきながら眺める。名前ちゃんの部屋にギターがあるから知ってたけど、サックスとピアノもできるとか知らなかったんだけど及川さん。
「じゃあ及川がご機嫌斜めだから私は行くわ」
「じゃあねー」
「いつものファンに向ける笑顔はないの?」
「俺じゃなくて名前ちゃんに話し掛ける子は対象外だからサ」
「うちのクラスの女子は誰も及川から名字取ろうとか思ってないから安心して」
「ふふん、無謀無謀」
じゃあね、と後ろ向きのまま手をひらひらと振る彼女を見送る。
「ていうか名前ちゃんサックスとピアノもできるの?習ってたっけ?」
「うちの父さん音大出身なんだよね。それで、子どもの頃から教えられて来ただけ」
「えっそうなんだ」
「うん。普通に会社員やってるけど実はね」
じゃあメニューも決まったし教室戻るか、と立ち上がったハイスペック名前ちゃんに続いて家庭科室を後にする。今は文化祭準備期間だ。あの独特の浮ついた雰囲気の中でそれぞれが自分の持ち場で作業をしている。教室に戻ると、委員長と女子数名に呼ばれた。
「なに?あ、衣装の話か」
「そうそう!このリストの中からなにか希望ある?」
「名字に選ばせるのは心配だったからこいつの分もお前が選べ」
「あ……了解」
心外な、と文句の一つでも言いたげな名前ちゃんだが、視線は俺の持つリストの体操着という三文字。流石にそれは適当だよ名前ちゃん。
「及川、お前セーラー服でいいんじゃないの」
「なあに名前ちゃん、俺のセーラー服見たいの?」
「超面白い」
「じゃあ名前ちゃんメイドね」
「俺は結構イケると思うね、スレンダー女子でどうよ」
「あぁいいね名前ちゃん可愛い貢ぐ」
「お前らやめろ、180超えの男が二人してそっち路線に行くな」
「「え?」」
衣装については数分考える時間を貰って、よく考えることにする。もちろん俺が。大切なことだしね!俺が紙と睨み合っていると、名前ちゃんは教室の入り口から他のクラスの女子に呼ばれてそっちに行ってしまった。え、あの子だれ?なに?
「及川、決まったか?」
「え?あ、うん、じゃあこの丸つけた二つで」
「了解」
名前ちゃん戻ってこない!どこ行ったの!探しに行きたいところだけど、女子に設営を手伝ってくれと言われたので仕方ない…仕方ない。女の子に重たい机とか運ばせられないもんね。30分くらいせっせと真面目に作業をしていると、名前ちゃんが帰ってきた。
「名前ちゃんおかえり」
「ただいま」
「なにかあったの?」
「当日のイベントの相談されてただけ」
「なんだ」
逆になんだと思ったの、と笑う名前ちゃんに「なんでもないし」と言い返す。文化祭もあと少しで始まる。
140721
ものぐさ君がハイスペックなほどものぐさ加減が目立つといいな