sss | ナノ

(これの設定)


別に人にキャーキャー言われるのが好きなわけでもないし、人の注目を集めるのが好きなわけでもない。


「本日のゲストは、嵐山隊の嵐山隊長と若者に大人気の名前ちゃんです!」
「よろしく頼むぞ」
「よろしくねぇ〜!」


街を歩いていたら今のマネージャーに声をかけられ、その場のノリというか、雰囲気というか、結構適当な気持ちで始めたアイドル業。声をかけられたことに少し嬉しくなったあの時の私を何度ぶん殴りたくなったか。


「嵐山さん、今日はありがとうございましたぁ〜」
「あぁ、俺も今日は楽しかったぞ!」
「また共演できることを楽しみにしてますっ!」


今現在不思議なことに売れっ子アイドルとして多方面で活躍している私は、スタジオの廊下で“嵐山隊”の嵐山さんと挨拶をした。ワイドショーのエンタメコーナーのゲストとして呼ばれた私と嵐山さん。全くジャンルが違うじゃないか。まぁそれはいい。出来るだけ浮く、というか雰囲気を悟られないようにやけに間延びした頭の悪そうな喋り方と死ぬほど練習させられたアイドルスマイルを披露した。のにも関わらず。


「あれ、名前ちゃん?」
「………………」


なんでだよ!


「はは、昨日ぶりじゃないか!」
「あの」
「なんだ?」
「人違いです、が」


もともと嵐山さんが同じ大学だということは知っていたし、見掛けたことも何度もあった。別に関係ないかと思っていたが、昨日の共演があってそう言っている場合でもなくなった。だからバレないように、関わることにならないように、ああいうきゅるーんとした小細工までやったのだ。なのにも関わらずこの男は、後ろの方の席に目立たないように座っていた私を見つけ、あろうことか笑顔で声を掛けてきたのだ。人違いと言っても、相変わらずの眩しい笑顔で冗談だと言ってくる。冗談だといいよね、分かるよ。


「…分かりました、ちょっと外に出ましょう」
「ん?いいぞ」


ああもうめんどくさい。嵐山さんを連れて、人の少ない廊下までやってきた。普段から人の注目を浴びる嵐山さんと一緒にいたら、私まで目立ってしまうではないか。


「あのですね、嵐山さん」
「同い年なんだから、敬語はいらないぞ」
「……私、仕事のことは隠して大学に来てるの」


仕事では、まつ毛もくるんと上を向き化粧もバッチリで、髪の毛も巻いてゆるふわ〜な流行りの可愛い格好をしてる。逆に大学、というか普段の私は、極力薄い化粧に髪の毛もストレートで、さらに顔を隠すように大きめの黒いウエリントン眼鏡を掛けている。別に事務所的には隠さなくてもいいと言われているが、私は自分の“目立たず平穏に過ごしたい”という意思を尊重している。私の仕事のことを知っているのは同じ大学にいる幼馴染みくらいだ。


「だから雰囲気が全然違ったのか」
「なんで、気付いたの」
「目が同じだったからな!」
「…嵐山さんって、なんというか、すごいね」


口をついて出た言葉。素直な感想を言ったまでだ。だって昨日の今日で、気づいてしまうなんて。入学してから今まで、バレずにやってきたというのに。実際とても驚いている。別に全く褒めているわけじゃない。ちょっと照れるのやめてくれないか。


「学校でもよろしくな、名前ちゃん!」
「………はい、こちらこそ」


(お蔵入りしていたのを見つけたので此方に…いつか機会があったら書きます)