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「こっちくんな!」
「いいじゃん、名前さん」


隊室の前の廊下で、柚宇さんと無言で足を止めた。お前怖えよ!と身構える名前さんに、じりじりとにじり寄る我が隊長。なにをやってるんだ、あんたは。


「二人ともなにやってんのー?」
「お、国近に出水」
「いやいや、お、じゃないっすよ」
「出水、名前さんって着痩せするタイプだろ?」
「あー、まぁそうっすね、結構」
「ほーん」
「あ!その顔やめて!あああんたも上半身くらい見たことあるでしょ!?」


にやにやしながら俺を見る太刀川さん。…本当に20歳かって!下世話な顔しすぎだろ!聞くところによると、名前さんの着痩せの話から始まり、体格、筋力の話へと広がっていったらしい。


「んで、名前さんにお姫様抱っこしてもらおうと思って」
「なんでだよ」
「ほんとにな、なんでだよ」
「お姫様抱っこってのはイケメンがやるからいいんだって聞いた」
「名前さん、やってやって!」
「あぁ、柚宇ちゃん」


ぱたぱたと駆け寄って、名前さんの首に腕を回した柚宇さん。そのまま膝裏と背中に手を置いて、軽々しく持ち上げる。きゃーと楽しそうな柚宇さんと、笑顔の名前さんを見て太刀川さんが文句を言う。あんた、ほんとに女子か。


「名前さん俺は!?」
「お前さ、女の子と自分を一緒にすんのやめない?」
「人間っていう同じジャンルだし」
「帰れ」
「名前さんありがと、新鮮!」
「それは良かった」
「慶もお姫様みたいな気分になって課題手伝ってもらいたいよぉ」
「最後のが本音か」


絶対無理、お前ガタイ良いもん。名前さんがそう言うように、というか、名前さんと太刀川さんの体格の差は結構リアルだ。太刀川さんのガタイが良いのと、名前さんが着痩せを踏まえても細身の体格をしていることが重なって差も顕著になる。柚宇さんは先に隊室に入ってしまってもこのやり取りは終わらない。華奢だというのはどこか違くて、名前さんはスレンダーなシルエットなだけでちゃんと筋肉もある方だ。あ、この二人は体重の差もありそう。


「一回頑張ってみようぜ」
「なんでだよ……って、あいたたたたた重い重い重い重い重い!」
「失礼な。でも出来てるじゃん」
「死ぬ死ぬ!落とすぞ!」


名前さんに掴まり、首に回した腕で体重を掛けるようにして、跳ねるように足を地面から浮かせると、反射的に(というか身の危険を感じて)お姫様抱っこの形になる。必死に声を上げる名前さんを御構い無しに、いつも通りの緩い顔のまま笑う太刀川さん。床に落とされる前に自ら着地し、満足そうに己の顎髭を手で撫でる。


「確かに悪い気はしないな」
「…悪い気がしたとか言ったらお前をぶん殴ってた」
「俺くらいまでの奴ならお姫様抱っこ出来るって分かって良かったじゃん」
「普通は滅多にお姫様抱っこしねえだろ」
「名前さん、俺は?」


ふとそれを口にする。すると名前さんは迷わずに、おいでと腕を広げた。太刀川さんと同じ要領で名前さんの首に腕を回して足を上げようとすると、それよりも早くに名前さんが掬い上げる。


「…………」
「…………」
「…………」
「…なにこの空気」
「しっくりくる」
「リア充爆発しろ」


(オチがない)