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「なんとか受け取ってもらえたよ、レポート」
「それは良かったな」
「うん」


廊下に設置されたベンチに名前さんと一緒に座る。あれから死ぬ気で書いたレポートはなんとか提出できた。名前さんは「そろそろ懲りたらいいのに」とため息混じりに言うが、あいにくそんなつもりはない。


「煙草吸ってもいい?」
「うん、俺は気にしないタイプだから。っていうかまだやめてないんだ」
「やめる気がないよ」


名前さんはヘビースモーカーだ。本部で姿が見えなければ喫煙所を探せばだいたい見つかる、という話はA級隊員のほとんどが知っているだろう。廊下、といってもこのベンチの前にだけ灰皿が設置されている。片手でマッチに火をつけて、くわえた煙草の先に持っていく。この人は元が良いのもあるが、煙草を持たせると更にかっこよくなると改めて思った。この前出水が熱弁してたから余計に。


「太刀川さん、名前さん!」
「お、出水」
「学校はどうした」
「午後からなんで、今から行きます」
「ん、いってらっしゃい」


朝から模擬戦でもやっていたのだろうか。イキイキとした男子高校生である彼が手を振って去っていく。出水を見送った後、名前さんは煙草に火を点け…火を点けた。あれ、これは。


「名前さんさ、出水のこと好きじゃないの?」
「どういうこと」
「そのまま」
「好きだよ」
「それってどういう?」
「出水と一緒」
「まじで」
「そりゃあお前、何年もあんな感じだったら俺だって絆される」


名前さんの言葉にあぁと納得する。出水の名前さん好き好きオーラは俺でも分かるくらいだ。それが師匠としての敬意や憧憬より、もっと別の感情を孕んでいるということも。名前さんは溜息を吐くように煙草の煙を吐き出した。


「俺はいいと思うけど」
「他人事だから?」
「違うって、うちの大切な隊員だ」
「あぁ、でも俺はそう思わない」
「なんで」
「なんでって、出水は17歳だ。多感な時期だし、そのうち彼女でも作って幸せになった方がいいだろ」
「名前さん、細かい」
「うるさい」
「あいつ、告白されても絶対に断ってるんだって。名前さんの言う、多感な時期なのに」


名前さんは口を噤んだ。この人はちゃんと出水のことを大切にしてる。出水の頼みは断らないし(俺が言ってもレポート手伝ってくれなかった)、さっきなんて出水が近付いて来たらわざわざ煙草の火を消していたから驚いた。


「俺はいい方向に向かえばいいなって思ってるからね」


名前さんの後輩として、太刀川隊の隊長として。



150419
まだやめられない


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