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いつものように本部の喫煙所に行くと、珍しく先客がいた。


「洸太郎」
「お、名前」


久しぶりに会った。とはいえそれは本部での話で、彼とは昨日も大学で会っている。特に感動もなく、お互いまだやめられないなぁと煙草に火をつけながら笑う。まぁ、やめる気も毛頭ないのだが。


「おい、ちょっとまった」
「なんだよ」
「それどうやるんだよ、そのマッチ」
「あ?」


マッチがどうしたんだと聞こうとした時、背後からコンコンと喫煙所のガラスを叩く音が聞こえた。向かいにいた洸太郎が短くなった煙草を灰皿に捨て、俺の背後に向けて手招きをする。振り返れば、出水が扉を開けて立っていた。どういうつもりだ、洸太郎。


「ストップ、お前はそれ以上入ってくんな」
「名前さんのけち!」
「出水、お前片手でマッチ付けられるか?」
「別に両手使えば良いじゃないっすか」
「できたらすげーかっこいいぞ。名前に見せてもらえ」


さっきのマッチがどうのこうの、っていうのはそれか。今になって合点がいった。じゃあ俺は行くわ、と出て行った洸太郎。残された出水は期待を込めた目で俺を見てくる。…どうやら見せろということらしい。左手に煙草を持ち替え、マッチ箱を手に取る。そのまま片手で箱を開け、親指と人指し指で掴んだマッチを掌の中にあるマッチ箱の横薬に擦り付けて着火して見せる。


「な、着いたろ」
「かっこいい!名前さん今のすげーかっこいい!」
「そうか?」


軽く振って火を消したマッチ棒を捨て、煙草を咥えて深く煙を吸い込む。そして静かに吐き出しながら、煙草を灰皿に投げ込むと、灰皿に入れられた水が煙草の火で蒸発した音が聞こえた。


「もういいんですか?」
「うん、もういいや」
「煙草吸ってる名前さん、かっこいいっすね」
「体に良いもんじゃないけどな」
「俺、好きです、名前さんが」
「おう、お前は俺の自慢だよ」


出水の頭を撫で、喫煙所から出る。今まで何度も聞いてきたその言葉を受け流しながら彼の顔を見ると、少しだけ納得のいかないような表情で唇を尖らさせていた。


「名前さんはずるいです」
「大人だからな」
「4つしか違わないのに」
「それでも。あ、なんか俺に用があったんだろ?」
「忘れてた!太刀川さんが、」


・・・


「お前、ほんとに大丈夫?色々と」
「大丈夫じゃないから頼ってるんだけど!去年名前さんも取ってた授業だから!」


ラウンジに設置されたテーブルでパソコンを開き項垂れる太刀川に溜息が出る。出水が俺を呼びに来たのはこいつのせいらしい。なんでも、レポートを手伝ってくれということだ。本気で彼の単位(と生活態度)が心配になってきた。


「出水を使うのやめてくんない?」
「だって名前さん、俺相手だと絶対に断るじゃん」
「そうだな」
「風間さんにも断られたし」
「可哀想に」
「でしょ?」
「蒼也が」


太刀川の向かいに座る出水が吹き出す。お前の隊長だろという言葉はなんとかして飲み込んだ。「俺の勉強も見て欲しいので、そのついでにでも太刀川さんのこと手伝ってやってください」と数学の教科書を取り出した出水は出来た部下だと思う。ガッツポーズすんなよ、太刀川くん。出水の隣の席に腰を下ろし、彼のシャープペンを1本拝借して開かれた教科書へと目を向けた。


「名前さん、助けて」
「A級1位が聞いて呆れるな。2行目、日本語がおかしい。着眼点も変えた方がいい。そうだな…ここ、この記述よく読め」
「なんか頑張れる気がしてきた」
「頑張んないとお前の未来は暗いぞ」


資料に印をつけて、パソコンと共に太刀川に返す。この前忍田さんが項垂れてたぞ。


「名前さん、名前さん」
「ん?」
「ここ、分かんないです」
「ここは、」


ルーズリーフに書いた式を変形させていく。説明をし終わる前に「あぁ、そっか」と声を漏らす出水は馬鹿ではない。教えれば教えた分だけ出来るようになる。忙しさから授業に出られないことが多い割りにここまで出来れば上出来だ。…隊長の方はなんで任務がない日にも大学を休むのか。それは俺にも、ましてや忍田さんにも分からない。


「名前さん、今失礼なこと考えてたろ」
「現実に嘆いてただけ。なんで隊長の方は、」
「やめて!」


150419
主人公(21)


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