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「お、悠一……と唐沢さん」
「名前さん」
「苗字くん、いいところに。あるスポンサーのご令嬢が」
「あーあー俺はなにも聞こえません」


耳を塞いで聞こえないフリをしていると、唐沢さんは「つれないなぁ」と言って去っていった。いや、つれないもなにも面倒ごとの気配しか感じませんでしたし。


「名前さん、露骨すぎるから」
「……そんなことはどうでもいいんだよ。ランク戦見たぞ、玉狛第二いいじゃん」
「でしょ」
「俺も応援してるって伝えておいて」
「うん…名前さん、暇なら玉狛に行ってみたら?小南も会いたがってたし」
「今日は任務もないし、久しく会ってないからそれもいいな」
「手土産にはいいとこのどら焼きが喜ばれるっておれのサイドエフェクトが言ってる」
「はいはい、わかったよ」
「おれはぼんち揚げでいいよ」
「お前は自分で買いなさい」


特級戦功貰ったんだからいいじゃん、と言う悠一。俺は流されねえぞ。でもまぁ、こいつがどれだけ頑張ったか知ってるから、ぼんち揚げのひとつやふたつくらい買ってやってもいいかもしれないな。そのうちの話だけど。


「お疲れ様、悠一」
「うん、ありがとう名前さん」


・・・


「珍しいすね、名前さん」
「烏丸が出迎えってのも珍しいな」


悠一に言われた通り、いいとこのどら焼きとケーキを買って玉狛支部にやって来た。いつも通り栞ちゃんが出迎えてくれると思って開かれた扉の向こうには、もっさりした男前こと烏丸が立っていた。


「お邪魔しまーす」
「名前さん!」
「桐絵ちゃん、久しぶりだね。はい、お土産兼お祝い」
「いいとこのどら焼きにケーキ!流石ね、名前さん!」
「名前、支部に来るなんて珍しいな」
「ランク戦見てきたからなぁ。悠一にも言われて……って、あの子たちは?」
「あぁ、あいつらなら下で資料集めをしてる」
「なんだ、残念」


俺から紙袋を受け取って嬉しそうに冷蔵庫に入れに行った桐絵ちゃんと入れ替わるようにレイジが来た。せっかく頑張っているところを邪魔するのも嫌だし、言伝だけ頼んで帰ろうかな。


「もう直ぐ夕飯だから、先に食べて待ってるといい」
「いいの?レイジ様、ちなみにメニューは?」
「カレーライスだ。小南も京介も喜ぶ」
「いただきます」


悩むことなくレイジの言葉に甘え、美味しいカレーライスをいただきました。最高。一度レイジに料理を教えてもらったことがあるけど、一通り調理した後に無言で首を振りながら肩を叩かれた。それから烏丸と一緒にどら焼きを食べていると、玉狛第二の三人組が部屋に入ってくる。


「今日は初戦勝利おめでとう」
「苗字さん…!」
「おぉ、覚えててくれてありがとう」
「そんな、S級の人を忘れたりしませんよ…!」
「それもそうか」
「あ、それと、見舞いにも来てくださって、ありがとうございました」
「いや、無事に退院できて良かったよ」


テーブルでカレーライスを食べる三人を見ながら、食事の邪魔にならないように空いた席に座った。お見舞いに行った時に三雲くんはまだ目覚めていなかったが、お母さん伝えに俺が来たことを知ったらしい。黒髪で目が鋭い後輩らしき子と一緒に来ていた背の高い黒髪の品が良さそうな先輩、とのことだ。品が良さそうかどうかは別として、蒼也の的確な表現が面白すぎて声を出して笑ってしまった。


「苗字さんもそうやって笑うんだ」
「こら、空閑…!」
「あはは、そんなにお堅い印象だったかな」
「S級って言われると、なんとなく」
「あー…でも悠一のこと思い出してみ?そんなこと全くないだろ」
「そうだ修、名前さんはノーマルトリガーだとポジションは射手だぞ」
「え!そうなんですか!?」
「……一応は?」
「一応って、名前さんは出水先輩の師匠じゃないすか」
「あー、うん」
「A級1位の出水先輩!?」


三雲くんとチカちゃんは出水に会ったことがあるらしい。大規模侵攻の時か。出水先輩には助けられましただの、凄かっただの言われると俺も嬉しい。ふと隣からカメラのシャッター音が聞こえたと思えば、烏丸が無表情で俺に携帯を向けていた。


「………なんで撮った?」
「いや、嬉しそうな顔してたんで。出水先輩に送ってあげようかと」
「やめて、頼むから」
「すみません、すでに送信済みです」
「あーもう…」
「なにか修に射手として教えてやることありませんか」
「お前の話の切り替えが強引すぎる」


……送られてしまったものは仕方ないとして、とりあえず三雲くんの方に視線を向ける。射手として教えること、か。


「……………特に」
「そんなに間を使ってそれすか」
「だってもう、あいつにどうやって教えたか忘れたし」
「じゃあ今度模擬戦でもしてやってくださいよ」
「あぁ、それなら」
「えっ!いいんですか?」
「うん。俺が暇してる時にでも声を掛けてくれたらいつでも相手になるよ」
「苗字さん、おれもよろしく」
「空閑くんとはB級に上がったら戦うって約束してたもんな……ちょっと、電話出ていい?」
「はい、さっきから鳴ってましたね」


先ほどからずっとポケットからバイブの振動を感じていた。この長さは電話だろうし、大体相手も分かってる。取り出したスマホの画面に映し出される発信者の名前を烏丸に見せると、我関せずといったように首を傾げられた。


「……もしもし」
《名前さん!なんで電話に出ないの!京介となにやってんの!?》
「なにもやってない…っていうか、ただ玉狛第二のお祝いに来ただけだから」
《だけ、って!じゃあなんであんな嬉しそうな顔してんの…!》
「それは出水のこと褒められたから」
《えっ……や、妬いたおれが馬鹿みたいじゃん…》
「だからそうだってば」
《もういいや…褒められたからって弟子とか取っちゃダメですよ?》
「うん、お前だけだよ」
《名前さんすき、じゃあ、また明日》


電話を切ると、隣から痛いほど視線を感じた。ここで隣を見たら負けな気がして、頑なに暗くなったスマホの画面を凝視する。


「お前だけだよ、愛してるのは」
「ばっ、お前やめろよ!そんなこと言ってないから!」
「今の電話、出水先輩ですか?」
「……うん、そう」
「仲がよろしいんですね」
「修、これは仲がいいというか」
「烏丸くん絶交」
「すいません、冗談すよ」


160129
ランク戦はじめました!


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