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「隣のクラスのショートの女子可愛いよな」
「あー、わかる!A-ってとこ?」
「じゃあー」


なんて趣味の悪い会話だろうか。おれの机の周りに集まった数人の男子生徒の話題に心の中で溜息を吐いた。一緒にいた槍バカは、話を聞いているのか聞いていないのか分からないような当たり障りない笑顔を浮かべていた。まぁ、こいつだって大した興味もないだろう。


「名前ちゃんはAAだな」
「は?」
「あぁ、それならB組の黒髪ロングの子の方が美人かも」
「うーん、難しいな」


これまでは聞き流していたが、よく知った人物の名前が出てきたせいで声を出してしまった。名前はボーダーに入る以前からの友人だ。ていうか、そいつがおれを待たせてるせいでこの教室から出られねえんだけど。大好きなコーヒーショップの新作メニューが気になるから一緒に行こうと言ったくせに、本人は職員室に日誌を提出しに行ったきりなかなか戻ってこない。


「……普通に名前の方が上だろ」
「名前ちゃんは美人より可愛いって感じだよなぁ」
「それは名前のにこにこ笑ってる顔しか見たことないからじゃねえの」
「出水、そりゃあ彼氏から見たら彼女が一番に見えるに決まってんだろ!」
「おれは彼氏じゃねえけど」
「え、そうなの米屋?」
「おう」


そこでなんでおれじゃなくてに槍バカに確認するんだ。お前も楽しそうに頷くんじゃない。おれが眉を寄せていると、ドアが開く音とともに話題の中心になっていた人物の気の抜けた声が聞こえてきた。


「ごめんね〜、先生に資料作り手伝わされちゃった」
「…名前」
「遅くなったからご機嫌斜め?それともTシャツでも馬鹿にされたの?…あいたっ」


おれの眉間の皺を伸ばすように、人差し指にぐりぐりと力を込めてくる名前に少なからず苛立ちを覚えてデコピンをしてやった。わざとらしく痛い痛いとおでこを押さえた名前は「ちょっとごめんね」と男子生徒の間に入って、机の横に掛けてあったカバンを手に取る。


「米屋はこれから暇じゃないの?」
「これから本部行くから無理。ていうか秀次待ちなんだなこれが」
「なんだ残念、じゃあ出水は借りていきますねー」


行こう、とおれの手を引いて歩いていく。学校を出たところで、前を歩く名前がくるりと振り返って「なんで機嫌悪かったの?」と首を傾げた。やっぱりB組の女子よりも名前の方がずっと可愛いし美人だろ。誤魔化すでもなく素直に伝えると、今まで器用に後ろ向きで歩いていた名前が足を止め、きょとんとおれの顔を見つめる。そうして、へらりと締まりのない顔で笑った。


「出水さ、私のこと好きでしょ」
「そりゃあ嫌いだったら一緒にコーヒーショップ行ったりしねえだろ」
「違くて!えーと、恋愛の意味で」
「あ?」
「だってB組の美人より私の方が上に見えちゃうんでしょ」
「そりゃそうだろ」
「多分それ、フィルターってやつだよ」
「フィルター?」
「好きな人のことは凄く良く見えちゃうっていうやつだよ。実際、私には出水が一番かっこよく見えるもん」
「ふーん…」
「あ、やっぱりケーキも頼もうかな」
「…………は?」


サイドメニューにあるじゃん、ケーキ。いやいやそこじゃねえよ。これからなにを頼もうか、なんていう中味のない話(と本人に言えば確実に怒られるから言わないが)と平行して凄いことを言われたような気がする。


「おれが一番かっこいいの?」
「うん、一応」
「一応って言うなよ…京介より?」
「私の目にはね」
「お前、おれのこと好きなの?」
「うん」
「じゃあ…おれは名前が好き、っていう?」
「それ私に聞く?」


なんだろう、この、おれが常識外れみたいな空気。誰も口を開かない数秒が何分にも感じる。おれの周りにいる女子をかたっぱしに思い浮かべてみても、やっぱり名前が一番だった。つまり、そういうことらしい。自覚してしまえば、驚くほどにしっくりくる。


「おれ、名前のこと好きだ」
「だからそう言ってあげたじゃん」
「……お前、変わってるって言われない?」
「出水は変わってるって言われてるよ」
「は!?」
「太刀川さんに」
「な、なんで」
「鈍いっていうか、疎いっていうか…あいつ大丈夫かって言われてたよ」
「言い返せねえ」
「あ、やっぱりこのまま本部に言って太刀川さんに報告しよう」


今まで進んできた道とは違う方向に向かって歩き出そうとした名前の手を、後ろから掴んで引き留める。


「えーと……付き合うか」
「うん、そうしよっか」


本部に到着するまでの道のりで、名前は今までのおれに対しての不満をこぼしてる。両想いかと思えば、他の男子と仲良くしても妬いたりしないし、その割にパーソナルスペースは近いし。文句を言っているにも関わらず、どこか楽し気な表情は、やっぱり他の誰よりも可愛いと思った。



160123
いずみの日ってことで意地でも更新してやろうと思いまして、ずっと前に途中まで書いて放置してたものを持ってきました


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