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「お前、今すげえ後悔してんだろ」
「よく分かったな」


グラスに注がれた日本酒を口に含む。周囲にはがやがやと会話に花を咲かせる男女で溢れていた。この状況を説明するとすれば、単純に「中学の同窓会」なわけだが。開催を伝える葉書がやってきた頃、すでに参加する旨の返信を済ませた洸太郎が「団体割引きで安く日本酒が飲み放題だからお前も来い」とほぼ強制的に参加することになった。少しずつ退散していく人を視界に入れながら、俺もそろそろ帰りたいと思う。


「あ〜、名前くん!」
「相変わらずイケメン!うける」
「おー、久しぶりだな、苗字」


うけねえよ。流石にそれを言ってしまうまでは酔っていない。近付いてきた女二人と男一人、誰だ。こんな時に洸太郎は酒のおかわりを取りに行くために席を立っていた。いい加減にしろ。


「名前くん、今付き合ってる人いるの?」
「いないなら狙っちゃおうかなあ」
「……いるよ」
「なんだ、ざんねーん」
「いいよなぁ、顔がいい奴は代わりがすぐにいて」
「すぐ寄ってきそうだもんね」
「あ?」


代わりとか、寄ってくるってなんだ。俺がガタリと音を鳴らしながら立ち上がったところで、後ろから腕を掴まれた。


「ちょっとまて、名前」
「…なに、洸太郎」
「お前こそ落ち着けよ」


半ば無理やり、引っ張られるようにして店の外に出た。店内に比べて、ひんやりとした気温が心地いい。


「キレんなよ」
「別にキレてない」
「俺が止めたからな」
「…………」
「なに言われたんだよ」
「別に」
「別に、なわけねえだろ」
「……すまん、大丈夫」


夜風で少し酔いが覚めた。頭に血が上ったのは確かだけど、流石に大人気なかったな。まだ飲み足りないであろう洸太郎に申し訳なくなって、俺は1人で帰るから店内に戻っていいと伝えて、まだ人が多い街中を歩き出した。


・・・


ー♪


部屋で学校の課題をやっていると、久しぶりに聞こえた着信音に驚いた。普段はマナーモードだから、こうやって音楽が聞こえることは滅多にない。


「もしもし、名前さん?」
《出水?》
「うん、そう。あれ、同窓会じゃなかったんですか?」
《あー、終わった》
「酔ってる?」
《いや、あまり酔ってない》
「あはは、あまりって」


笑うなよ、と電話の向こうで名前さんが口を尖らせてる様子が目に浮かぶ。名前さんの声の後ろで、微かにざあざあとした雑音が聞こえ、彼が外にいることが分かった。そんなことよりも、本題だ。名前さんが夜に、しかもメールではなく電話をしてくることなんて滅多にない。


「なにかありましたか、名前さん」
《なにもないよ》
「それでおれを誤魔化せると思った?」
《……はぁ、なんでわかるんだよ》
「名前さんのことだから」
《窓開けて》
「え、うそ!」


焦りつつも、この部屋唯一の窓を開けた。ひんやりとした外気が部屋の中に入ってくることなんか気にも留めずに、上半身を乗り出し外を見ると、名前さんがスマホを耳に当てたまま右手をひらひらと振っていた。うそ、なんで。


《出水の顔が見たくなった》
「名前さん、そこで待ってて!」
《え、いいよ。もう帰るから》
「動かないで!」


半ば無理やり、そう伝えて電話を切った。コートを羽織ってから急いで外に出る。


「名前さん!」
「おう、出水」
「名前さん、どうしたの?なんか嫌なことあった?」
「うーん…嫌なことっていうか」
「言いたくない?」
「……一瞬、抱き締めさせて」


その言葉に頷く前に、前から彼に抱きついた。驚いた名前さんだったが、そのままおれの背中に腕を回した。


「名前さん?」
「…出水の代わりなんていないよなぁ」
「ほんと、なに言われたんすか」
「んー、取るに足らないこと」


おれの体を離した名前さんは、さっきよりもスッキリしたというか、吹っ切れたような表情をしていた。心なしか、口角も上がっているように見える。


「おれの代わりなんか、見つけさせてあげないっすよ」
「そもそも探さないし」
「うん」
「夜遅くにごめんな、会えてよかった」
「電話、嬉しかったです」


そう言えば、名前さんは眉を下げながら笑った。後日諏訪さんから聞いた話だけど、名前さんの恋人はすぐ寄ってきて代わりがいる、だなんてことを言った同級生がいたらしい。冗談ぽく言ったつもりだったけど名前さんが怒るとは思っていなかったらしく、謝っていたとのことだ。


「名前さんの地雷って、おれ関係かぁ」



151219
放置してた文をもったいない精神で…!私にクラス会の知らせが来た時に書いたやつでした。


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