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「なぁ、出水。大学で見掛けた名前さんの様子が変だったんだけど」


言葉の後に、太刀川さんが俺の様子に頭を傾げたのが見えたから、ソファに座り込んで意味もなくスマホのホーム画面を付けたり消したりするのをやめた。話は数日前に遡る。ラウンジで会った名前さんは、どこか暗い表情で眉を寄せていた。


「名前さん?」
「っあ、出水」
「どうしたんですか?」
「いや、別に……てのは嘘で、」
「なんで嘘ついたんすか」
「後ろめたくて」
「え?」


後ろめたくて、その言葉で色々と最悪のパターンを思い浮かべた。朝起きたら知らない女が裸で隣に寝てた、同じ授業を受けてる可愛い子が好きになった、エトセトラエトセトラ。それを内心焦りながら伝えれば、名前さんは「それはない」と笑いながら否定する。


「じゃあ、新しい弟子とか」
「絶対ねえよ」
「よっしゃ!じゃあなんすか?」
「煙草」
「げ」
「大学で、流された」


そういえば名前さんは禁煙中なんだった。それを忘れるくらい、煙草から離れていたってことか。しかも、それを律儀に俺に報告してくるところが可愛い。名前さん可愛い。


「何かペナルティとか付けます?」
「ペナルティ?」
「えーと、じゃあ俺に触るの禁止にしましよう」
「は?」
「俺も名前さんに触れなくなるので」
「……どれくらい」
「1週間?」
「それを1週間…ドラマとかではエッチだけ禁止レベルなのに…」
「えっち………」
「いや、このくらいの方がいいか」
「そうっすね」


なにが「そうっすね」だ、とあの時の自分に言ってやりたい。あれから6日経過しているが、名前さんは一切俺に触れてこない。かと言って、避けているとかいうわけではなく、ただただ触れないだけだ。そんな名前さんの様子を見て、意外といけるじゃんと思ったが、目の届かない場所では太刀川さんに指摘される程度に様子が変だったらしい。かわいい。


「あぁ、だからか」
「多分すけど」
「確か名前さんなら、もうそろそろ来てると思うぞ」
「まじすか、ありがとうございます!」


・・・


「名前さーん!」
「出水」
「太刀川さんが、名前さんの様子が変だったって」
「……お前のせいだぞ」
「へへ、嬉しい」
「喜ぶなよ」
「いてっ」


ぺし、と名前さんが持っていた紙の束で頭を軽く叩かれる。その左上をクリップで留められた紙の束に視線を送ると、それに気付いたらしい名前さんが表紙を見せながら「去年の俺のレポートだよ」と教えてくれる。去年の、で嫌な予感がした。その予感は即座に的中し、やっぱり太刀川さんに貸すために持ってきた、とか。


「太刀川いる?」
「隊室にいますよ」
「そうか。ねぇ、出水」
「はい?む、っ」


名前さんは俺の口をレポートで覆い、その上にそっとキスをする。鼻腔をくすぐって逃げていく久しぶりの名前さんの匂いだとか、伏せられたまつ毛が長いだとかよりも、レポート越しにキスをするとかいう少女漫画でありそうなことを平然とやってみせる(しかも綺麗に決まる)名前さんってなんなんだろう。神様って平等じゃないらしい。


「ず、ずる……ずるい…!」
「今のはセーフ」
「そういう意味じゃなくて!ただでさえ名前さん不足で調子くるってんのに!」
「あと少しな」


そう言って歩き出した名前さんだけど、頭を撫でようとして右手を上げかけたところを見逃さない。俺はその様子を脳裏でリピートしながら、上機嫌で名前さんの背中を追うのであった。


・・・


「名前さん、これから本部行って模擬戦しようぜ」
「すまん、無理」
「即答かよ」
「今から出水迎えに行くから」
「あぁ、1週間のやつ」
「そうそう」
「あれやめた方がいいよ。ここ1週間の俺との模擬戦で名前さんの勝率下がってるの気付いてる?」
「まじで?」
「まじで」


151123
○○越しのちゅーがしたかっただけ


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