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「死にたい」
「ま、まぁ、元気だしてよ」
「来馬ぁ」


ぐすんぐすんとわざとらしい嘘泣きをしながら来馬の肩に手を乗せたのが今日の昼頃の話だ。来馬の人の良さそうな笑顔で励まされたが気持ちは一向に安らかにはならなかった。何があったのかと言うと、例の元カノが知らん男と仲睦まじく腕を組みながら歩いていたのだ。すれ違いざまにばちりと目が合ってしまって、俺の目の前にやって来た彼女は何故か申し訳なさそうに「名前は優しいだけで、刺激が足りなくて」だなんて失礼極まりないことを吐いて行った。お前この前は会えない時間がどうとか言ってただろうが。なんだこの女と思いつつも、特に偏差値が高い訳でもない頭で導き出した答えは「浮気」だった。


「ぎゃはは、やっぱり浮気かよ」
「当真、やっぱりってなに!」
「俺は前からあの人は名前さんに合ってるとは思ってなかったぜ」
「ぐぬぬ…」
「別に大好きぃって訳じゃなかったんだろ?なら良いじゃねえか」
「隊長!そういう問題じゃない!」
「お前はザ・優男って感じだからなぁ」


人の不幸話で盛り上がる隊長と当真。優男のなにがいけないんだ。女の子には優しくするのが男ってやつだろう。「任務もないし、誰か捕まえて模擬戦でもやって気分を晴らしてこいよ」という隊長の言葉に頷いて隊室を出る。未だに背後では、俺の不幸話を肴に盛り上がっているようだった。く、くそう。


「あ、浮気された人」
「ほらな、俺の言った通りじゃん」
「………太刀川隊なんて嫌いだ」
「まぁまぁ、元気出せよ」
「ていうかなんで知ってんの」
「当真さんから聞きました」
「あいつ洩らすの早くない…!?」


これから防衛任務らしい太刀川と出水に後ろ指を指された。うちの隊員の口が軽すぎるのが問題だ。この2人も所詮他人事だと言わんばかりにけらけらと笑ってくる。悪魔か。


「お前らも浮気されてみろ」
「俺は絶対ないっす」
「自信満々かよ!お幸せにな!」


さりげなく幸せアピールをされたことにより、気分は更に下降していく。ボーダーには人の傷口に塩を塗ってくる人間しかいないのか。数人の顔を思い浮かべたが、確かに大体が人の傷口に練りワサビを擦り込みたがる人間が多いのは確かだった。悲しい。


「名前さんっ!」
「……陽介?」
「当真さんから聞いた、んすけど」


人気の無い自販機の前で、缶コーヒー片手に立ち尽くしていると、陽介に声を掛けられた。本当にみんな知ってるのな。連絡網かよ。そして最近会っていなかった陽介の姿を捉えたことに、一瞬で心が落ち着いたのが自分でも分かった。


「元気だしてくださいよ」
「陽介」
「気分転換に模擬戦でもします?」
「……久しぶりに陽介を見たら、なんだかすごく安心した」
「へ、」


俺が無意識に口に出した言葉に、陽介はぴたりと動きを止めた。それから、みるみるうちに耳まで赤くなる顔を、自分の腕で勢いよく隠した。あれ、赤くなる?


「ちょ、まった、名前さんずりぃ」
「え、なに」
「なにじゃねえよ、もう、やだ」
「陽介?」
「……っ俺に、しとけばいいのに」


そう言って 来た道を小走りで駆けていく陽介。模擬戦してくれるんじゃないのか、なんて心のどこかで思ったが、それを言葉にするまでの間に、自分の頬が先ほどの陽介と同じように熱を帯びていることに気付いてしまうのだった。


「うわ」


151123
絶対に29日に終わらない…


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