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「名前さん、トリックオアトリート!」
「はいはい、好きなの持ってって」


ハロウィン。毎年一部の祭好きな、もとい暇なボーダー隊員の間で任務終わりのささやかなハロウィンパーティーが行われている。それも仮装と例のセリフで先輩からお菓子を集ろうという趣旨のものである。年下の隊員が多いため、万が一にもお菓子がないなんてことになったらどんな悪戯が返ってくるか分からない。むしろ嬉々として悪戯を考えるのは、本人ではなくその隊の隊長なんだから余計に怖い。


「洸太郎、トリックオアトリート」
「ほれ」
「ココアシガレット…」
「ていうかお前もちゃっかり仮装してお菓子強請りに来んなよ」
「俺もお菓子欲しいし」
「それ、吸血鬼か?」
「うん。仮装って言っても、換装体の設定弄るだけだから一瞬だぞ」


洸太郎に貰ったココアシガレットを噛み砕きながら歩いていると、背後から呼び止められた。振り返れば、同じ背丈の男2人が赤と緑の、えーと、配管工の格好で立っている。ご丁寧に口ひげまで携えて。


「「トリックオアトリート!」」
「2人ともぼんち揚げでいいだろ」
「待ってました」
「嵐山に悠一、お前ら仲良しだなぁ」
「まぁね」
「でも名前さんには負ける」
「あぁ、そりゃな」


もうすぐ来るよ、そう言い残して歩いて行った2人。その似たような後ろ姿を見ながら、あいつらもああやって年相応なことが出来るのか、と心の何処かで安心した。


「名前さん!」
「あ、出水」
「吸血鬼の名前さん」
「なんですか、神父様」


ぱたぱたと俺の目の前に走ってきた出水は、黒くて長い、いわゆる神父のローブを身に纏い、首から十字架を下げている。確か去年は2人でキョンシーをやった記臆がある。


「太刀川さんが探してましたよ」
「なんか用あったっけ?」
「いや、トリックオアレポートだって」
「そういう柔軟な発想は評価したい」


ため息を飲み込み、太刀川隊の隊室に向かおうとしていた足を止める。近寄るのはやめておこう。出水の話によると、警察の格好をした三輪の周りを囚人服の格好をした三輪隊メンバーが囲っていてなかなか面白い光景らしい。三輪はこういうのは嫌いそうだけど、米屋はもとより他のメンバーがなかなかにノリ気なもんで、なんだかんだ毎年巻き込まれているとか。レポートおばけよりそっちの方が見たい。


「あ、トリックオアトリート」
「飴ですけどいいですか?」
「やった」


可愛らしいピンク色のフィルムで包装された飴が数個、俺の手のひらの上に転がる。それを1つ、口の中に放り込んだ。苺みるくだ。


「出水にもお菓子用意してるよ」
「名前さん、お菓子はいらないから俺にいたずらしていいよ」
「……お前さ、俺を煽って楽しいの?」
「んー」


楽しくないといえば嘘になりますね、だなんて当たり前のことかのように言う出水に、今度こそ先ほど飲み込んだはずのため息を吐いた。してやられてる感がする。口角を上げながら俺を見る出水の後頭部に手を添えて顔を寄せた。


「…………ちょっと」
「だ、だめ」


出水は首に掛けていた十字架で口元を隠している。俺の唇に冷たい金属が触れるまで、あと数センチといったところだ。


「ここ、本部ですし!」
「いたずらは」
「帰りましょ?ね?」
「帰ったら、」
「あ!でも俺が神父で、名前さんが吸血鬼ですから、ね!」
「あはは、今更焦ってんの?」
「だって」
「もう遅いかな」
「はい?」
「お前の吸血鬼様は腹ペコだからね」


話の内容には似つかないような明るいトーンで言えは、出水はぴたりと動きを止めて俺を見つめる。焦点がどこに合っているのか分かった俺は、わざとらしくにっこりと微笑んで見せた。


「牙!」
「換装体って便利だよなぁ」
「うわー!それはずるいでしょ!」
「お菓子配って帰ろう、神父様」


出水の肩に手を回しながら耳元で静かに言うと、もう降参だとでも言うようにそっと両手を挙げる。「…もう名前さんの好きにして」そんな小さな呟きを聞かぬフリをして、喧騒の漏れるラウンジへ足を進めた。


151031
ハッピーハロウィン!


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