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「あれ、蒼也」
「名前か」
「B級隊員に喧嘩吹っ掛けたって聞いて野次馬しに来たんだけど、もう終わっちゃった?」
「………」
「ごめんて」


無言が怖い。任務が終わり本部へ戻ると、蒼也がB級隊員と模擬戦をしているっていう話をC級隊員がしていた。そういえば今日は入隊日だったっけ。そう思いながら野次馬しに行こうしていたら、風間隊の3人が向こう側から歩いてきていた。


「強いのか?」
「弱いな。だが、知恵と工夫を使う戦い方は嫌いではなかった」
「へえ」
「でも引き分けたんですよ、名前さん」
「おい、菊地原!」
「まじで?何戦やったの?」
「24勝1引き分けだ」
「奮戦したなぁ」
「名前さんって才能ある奴しか興味ないんじゃないんですか?」
「ん?そうでもないよ、菊地原」
「菊地原がすみません…」
「別にいいよ、歌川。そうだな、俺も挨拶しに行ってみるかぁ」
「あぁ、そうしてみるといい。迅の後輩だ」
「例の玉狛の子達か」


黒トリガーの一件の。それは余計に顔を見てみたくなった。ほぼほぼ好奇心という理由で訓練室に向かうと、そこには見知った顔しかいなかった。とりあえず、入口付近にいた烏丸と藍ちゃんに声を掛ける。


「あれ、玉狛の子は?」
「名前さんじゃないすか」
「わっ、名前さん…!」
「やっほー、二人とも」
「今日は出水先輩はいないんすね」
「いや、流石にいつも一緒に居るわけじゃねえよ」
「名前さんと出水先輩って…」
「木虎は知らないのか?出水先輩は名前さんの伴侶ってやつだ」
「伴侶…!」
「伴侶ってお前」
「なんで、えっ、烏丸先輩の方がかっこよくないですか!?」
「藍ちゃん、そこなの?」
「そうっすよ、俺なんて公式イケメンですし」
「メタい」


顔色を変えずに俺を見る烏丸。そんな顔で見るんじゃない。ってこんな話をしに来た訳じゃないんだった。二人に聞けば、俺の目当ての子達は射撃場に向かったらしい。入れ違いか。仕方ないから二人に別れを告げ射撃場に向かうと、そこはなんというか、混沌としていた。射撃場に入る俺とすれ違いになった鬼怒田さんに、なぜか「この状況をどうにかせい!」と腰あたりを叩かれた。なんと理不尽な。この状況ってなんだ…と思い室内を見渡せば、壁に見慣れぬ穴が開いている。穴?


「名前さん!へるぷ!」
「佐鳥、なにこの状況」
「簡潔に言うと、C級の子がアイビスで壁に穴を開けたんだ」
「はぁ?アイビスで?まじすか」
「トリオン量が凄いみたいなんだよ」
「へぇ、トリオン量が……出水にもやらせてみようかな」
「これ以上鬼怒田さんの心労を増やすのはやめてやってくれ」


東さんが眉を下げて笑う。何度見ても壁にはぽっかりと穴が開いている。いやぁ、凄いな。どの子だろうと辺りを見回せば、C級の白い隊服に混じって黒と青の見慣れぬ隊服を着た隊員を見付けた。俺の視線に気付いた東さんが「その子たちだ」と教えてくれる。


「あの、玉狛支部の三雲です。トリオン量の報告をせずに…」
「もしかして君か!蒼也に喧嘩売られたの!」
「えっ、蒼也…?」
「風間だよ、風間。小さいやつ」
「あ、は、はい…!でも喧嘩を売られた訳では!全く、ないです…!」


B級の子が申し訳なさそうに頭を下げてきた時に、俺は本来の目的を思い出した。玉狛支部の新人を見に来たんだった。この場での見知らぬB級、しかもご丁寧に名乗ってくれた彼の肩を軽く叩く。ってことは、後ろの白い子と黒髪の女の子のどちらかが壁に穴を開けた子か。


「俺は苗字名前、S級やってる」
「S級…!」
「ってことは苗字さんって強いの?」
「どうかな。まぁ、そこそこ強いよ」
「空閑、失礼だろ…!」
「おっとすみません。おれは空閑遊真です」
「空閑くんが黒トリガーか」
「ん?なんで分かったんだ?」
「色々と話は聞いてるよ。じゃあ壁に穴を開けたのは…」
「すみません、わたしがやりました…!玉狛支部の雨取千佳です…」
「俺は怒ってないからから謝らなくていいよ。別に壁に穴が開こうが俺は構わないし」


ぺこぺこと頭を下げてくる彼女。こんなに小さい体で壁に穴を開けられるトリオン量かぁ…末恐ろしいな。後ろから「佐鳥は困るんですよぅー」という涙ぐんだ声が聞こえてきて笑ってしまう。


「俺はもう行くけど、これから頑張ってね。応援してる」
「苗字さんもおれと戦ってくれるの?」
「君がB級になったらな」


・・・


「玉狛の新人に会ってきたんだけど」
「まじすか!いいなぁ」
「壁に穴を開けたっていう」
「話には聞いてるけどやべーっすね。やっぱりこう、いかつい感じの奴なの?」
「それが全く。小さくて可愛い女の子だったよ」
「へえ」
「あ、菊地原に“名前さんは才能ある奴にしか興味ないんじゃないんですか”って言われた」
「あいつ失礼だな…!?」
「いや、別にそれは良いんだ。多分、出水を指してると思うんだけどさ」
「へ?」
「才能云々じゃなくて、俺は出水だから好きなんだよなあって思った」
「……名前さん、なんでいきなりデレんの!?」


151006
やっと玉狛第二を出せました!


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