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「いいんじゃないすか?」
「え!?」


予想とは、予想とはちょっと違う返答におかしな声が出た。それに対して俺だけでなく、出水も驚いた顔をする。


「え、だ、だめでした?」
「いや、てっきり、嫌だっていうと」
「少し前の俺ならそうだったと思うけど、今は前より余裕があるし」
「…うーん」
「ていうか、俺も欲しい」


なんの話をしているのかって、先日の雑誌取材の話だ。太刀川隊がどうの、とその場凌ぎをしたやつ。


「名前さんが嫌ならそれでいいんですよ?」
「いや、それよりお前が」
「俺のことばっかり考えてますね」
「そりゃあな」
「俺は大丈夫。周りに自慢できるし」
「自慢の恋人だって?」
「こっ、!し、師匠だって!」


その後現れた太刀川が(もちろん)面白がって忍田さんにOKサインを出しに行ったから、俺はもう後に引けなくなった。


・・・


「これなんていいじゃないか、名前さん」
「…ノリノリだな、嵐山」
「心細いから付いてきてって言ったのは名前さんだろう」
「そうだけど」
「で、写真の方だが」
「どれも俺じゃん…なんなの…」


あれからすぐに予定を取り付けられ、あっという間に当日だ。丁度同じ日に同じ雑誌の撮影があるという嵐山に頼み込んで付き添ってもらっているのだ。パソコンの画面を覗き込んであれやこれやと話をしている嵐山は、さすが広報担当みんなのジュンジュンという感じがする。角度が、写りが、と言われてもどれも見慣れた自分の顔なわけだが。


「俺より出水を連れてきた方が良かったんじゃないか?」
「なんで?」
「出水の方がかっこいい名前さんを知ってるだろう」
「…んー、多分あいつは全部良いって言うと思う」


逆に良くない名前さんがいるとでも?とか言いそう。俺の言葉に笑った嵐山が、思い出したようにインタビューもあるんだろ?と言う。そうだった、忘れてた。うわ、面倒くせえ。


「気楽に行けばいい」
「…一緒にインタビュー受ける?」
「名前さん、諦めて行こう。俺は写真を選んでおくから、一人で頑張ってくれ」
「優しい拒否」


そうして俺は初対面のインタビュアーと二人きり、別室に籠ることとなった。


・・・


「名前さん名前さん!雑誌!これ!買ってきた!」
「あー、早いな」
「ボーダー関連雑誌は発売日にうちの売店に並ぶんすよ、知ってた?」
「知らない」


嵐山が表紙の雑誌を手に、笑顔で俺の元へやって来た出水。ラウンジのベンチの背凭れに預けていた上半身を起こす。隣に座った出水は、楽しそうに雑誌の表紙を俺に見せてくる。


「読んでいい?」
「…別にいいけど」
「うん、読むね」


出水は表紙を開いて目次を確認する。パラパラとめくっていき、あるページで止まる。


「あー!名前さん!名前さん!」
「ん?」
「みてみて!」
「うん」
「名前さん、かっこいい!」


出水は俺が映るページを開きながらワントーン明るい声を出す。お前は女子高生か。そのページに目を向ければ、大きく俺が載っている。


「うわ!なにこの粋がってる顔!」
「かっこいいじゃん!」
「こんなん恥ずかしすぎる」
「10ページも名前さんの写真なんだって!何種類も衣装用意されてたんだ」
「あー、確かそんな記憶も」
「ねえこれなんて凄くかっこいい、前髪上げてるの」


忙しなく色々な写真を指でなぞりながらリアクションを取られると、なんというか、変に恥ずかしい。嵐山セレクションの俺の写真は、どれもキリッとした顔をしているものだった。よくあの中から探したな、と他人事のように思う。


「あれ、笑顔の写真ないっすね」
「俺が笑わないだけかな」
「え、名前さんよく笑うよね?」
「そういや、俺ってお前以外の前でもよく笑ってるっけ?」
「………」
「俺、出水相手じゃないとにっこり笑えなてないのかもしれないね」
「うわ、名前さんほんと恥ずかしい!」
「え、なに、写真が!?」
「違う!名前さんが!」
「なん、え?ご、ごめん?」
「もう名前さんほんとすき!」
「うおっ、情緒不安定か」


出水は手にしていた雑誌を俺の脚に軽く叩きつけてから腰に抱きついて来る。俺の脚と出水の間から雑誌を引き抜いて、ページをめくるとインタビューのページを見つけた。そういえば、出水の話をしたような気がする。気付けば膝枕のような体勢になっていた出水の頭に雑誌を置いて目を通す。


「最後に、恋人はいますか」
「!」
「はい、と」
「ちょちょちょっと待って名前さん」
「いっで!」
「あっ」


出水が勢いよく起き上がったから、後頭部に俺の顎がごつんと鈍い音をたててぶつかった。いたい。ごめんごめん、と俺の顎をひと撫でしてから雑誌を手に取る。


「………」
「読んだ?」
「よ、読んだ!けど!けど!」
「なに」
「名前さん無理すぎ」
「俺そんなに変なこと言ったっけか」


出水から雑誌を受け取って自分の回答に目を通す。いや、別に変なこと言ってないじゃん。そう言えば、出水は「名前さんのそういうとこ!」と顔を両手で覆った。


(−恋人はいますか?)
(はい、年下の恋人がいますよ)
(−あっすみません、恋人関係の話は大丈夫なんでしょうか?)
(俺は嵐山隊と違って広報担当じゃないし、いいんじゃない?多分)
(−そうですか、よかった。じゃあ、その恋人さんとラブラブなんですね)
(またやけに古い表現しますね。でもまぁ、そうなんじゃないかな。すごく好き。ほんとに可愛いし、離したくないって思うから)


150817
ラブラブですね


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