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「嫌です」


キッパリと断る。嫌なら嫌とハッキリ言え、そう育てられてきたのだ。目の前の根付さんはぐぬぬと眉を寄せ、忍田さんはやっぱりなというふうに笑った。なんの話をしているかというと、嵐山隊以外のボーダー隊員でも雑誌の特集をしたい、という話が出版社の方から来ているらしい。一度だけでもどうかな、と折れない根付さんに「だから嫌だって」と返す。それでもやっぱり気が変わらないようで、また聞きに来ると言って去っていった。すごいな、根気が。


「一応聞くが、名前はなにがそんなに嫌なんだ?」
「なにって、俺は嵐山隊みたいな広報担当じゃないよ」
「それだけじゃあないだろう?」
「…忍田さんがいじわるだ」
「はは、隊員思いだと言ってくれ」
「……出水が、嫌だって言うかもしれないじゃん」


再び同じように眉を下げて笑う。「根付さんはしつこいと思うから、遠征チームが戻ってきて太刀川隊がOKサインを出したら引き受ける、と伝えておこう」と言う忍田さん。ああ、なるほど。それなら当分の間は根付さんに捕まることもないだろう。ありがとう忍田さん、お礼を伝えてからはたと気付く。そういえばさっき、最初から出水のこと知ってたみたいな言い方だった。


「あれ、なんで出水のこと…」
「酔った慶が嬉しそうに話していた」
「あんの髭面!」
「そう怒らないでやってくれ。慶もあれで名前には懐いてるんだ」


そう言われてしまえば、これ以上なにも言えなくなってしまうわけで。それを知ってか、じゃあ根付さんには伝えておくから、と朗らかに去っていく忍田さんの後ろ姿を見つめることしかできなかった。


・・・


「名前さん、名前さん」
「ん?」
「おれ、今日は帰りたくない」


出水が小首を傾げたところで目覚めた。時間を確認すれば、まだ朝の5時。というか、冷や汗がすごい。はぁ、外がうっすらと明るくなっている中で深い溜息を吐いた。


「ぎゃははは、ひーっ、っはは」
「お前に話さなければ良かった!!」
「ぶはは、クソおもしれぇ!」


所変わって居酒屋。そんな俺の話を酒の肴に、腹を抱えて笑う洸太郎。


「溜まってんのか?」
「下品だなぁ、オイ!」
「ていうかお前、性欲とかあんの?」
「俺をなんだと思ってんだ!」


ビールジョッキをドンとテーブルに置く。わりぃわりぃ、口ではそう言うが全く悪いと思ってないだろ。未だに楽しそうにけらけらと笑うこいつは本当になんなんだ。覚えておけよ。


「名前ががさみしんぼってのが本当に意外だわ、付き合い長いけど」
「……否定できないのが辛い」
「今まで、彼女から連絡来ない限り会ったりしない淡白な彼氏だっただろ」
「今思えば冷たいな、それ」
「だから振られんだよ」
「別にいいんだけどさ、それは」


米屋にも言われたけど、周りが意外だと驚くように、むしろそれ以上に本人の方が驚いているわけで。夢に見るって、なに。相当だろ。いままでそういうのは全部ネタだと思ってた。


「とうとう名前くんにも純粋な春が来たのかぁ、よかったよかった」
「純粋な春ってなに」
「今までのは、春っていうかただの晴れの日って感じ」
「ちょっと意味が分からない」


まぁまぁ今日は飲んで忘れろ、と店員を捕まえて注文をする洸太郎。俺も特に反論することなく、飲んで帰って寝るというだけの簡単な予定を頭で立てつつ、ビールのおかわりを注文するのだった。


150713
出水まだいない


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