zzz | ナノ




「やっほー、名前さん」
「…げ、悠一」
「げってなに、名前さんほんとは俺のこと嫌い?」
「そんなことはないけど、こういう登場する時のお前って大抵面倒事運んでくるじゃん」
「ひどいな。こっちは名前さんが寂しがってるんじゃないかと思って会いに来てあげてるのにさぁ」


俺が寂しがっていないか。そうだ、遠征チームがここを発って数週間経つ。だからって俺の生活は変わるわけでもなく、蒼也のために授業のノートをまとめたり、空きができた分だけ増えた防衛任務などで普段より忙しい毎日を送っていた。だからそんなに“寂しい”なんて思う暇もないのだ。


「名前さんって、家帰ったらなにしてんの」
「……ジグソーパズル」
「うわ、悲しい!それ普通に寂しさ紛らわせようとしてるじゃん」
「うるせー、帰れ」


しっしっと手で追い払うようにしたところで、こいつが居なくなるなんて思ってないけど。そのジグソーパズルだって、この前大学で会った時にレイジがくれたものだ。いやまて、レイジは俺が寂しがってるからパズルをくれたの?2000ピースのやつ。っていうか、たまたま持ってたから名前にやるって、たまたまジグソーパズル持ち歩くってどういうことだよ。くそ、あいつも玉狛だった。


「だからさぁ、名前さん」
「嫌だ」
「話くらい聞こ?」
「嫌でーす」
「イレギュラー門って知ってる?」
「嫌だって言ってんじゃん。知らない知らない、そんなの知らない」


もうその単語だけで面倒くさい。さっきだってそいつのお陰で遠くまで駆り出された。いい加減にしてほしい。


「いい加減にしてほしいって言った」
「あ」
「もう少しでその原因が掴めそうなんだよ、だから、ね」
「ねってなんだよ」
「その時は少しだけ手伝ってよ」


悠一はそう言いながら眉を下げる。こいつは俺がその顔をされたら突っぱねることができないって分かってるのか。面倒くさい、イレギュラー門はもっと面倒くさい。なら根本から対処した方が手っ取り早いし、確実だ。ため息交じりに頷くと、「やったー!そう言ってくれると思ってたよ」と笑う悠一に少しイラっとした。


「これが片付いた頃には遠征チームも戻ってくるよ、俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「………はぁ」


・・・


「あれ、名前さんじゃん」


ベンチに座って、棒付き飴をガリガリと噛み砕いていると俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。視線を右側に向ければ、見慣れた学ランとカチューシャ。米屋は俺の隣に座り、自販機で買ったらしいジュースのプルタブを開けていた。


「この学ラン、懐かしいでしょ」
「………お前さぁ、なんでわざわざそういうこと言うの」
「俺見ながら一瞬ぼうっとしてたぜ、名前さん」
「うるせ」


内心イラっとしたから米屋の頭をスパンと叩く。少しずれたカチューシャを元の位置に戻しながら「名前さんの乱暴者」とケラケラ笑う。痛そうな素振りを見せるが、痛みがあるほど強く叩いてないだろうが。


「ていうか名前さんイライラしてんね」
「米屋にな」
「ちがくて!さっきの飴を噛み砕いてるとことか、C級が見たらビビるって」
「……そんなに怖い顔してた?」
「いや、無表情がすげえ怖い」
「…まじか」
「美人の怒った顔は怖いって言うじゃん?」
「それはちょっと分かんない」


ていうか、文脈がおかしいだろ。そんな俺を御構いなしに、米屋は手にしていた缶ジュースをゴクゴクと飲み干し、ゴミ箱に向けて空になった缶を放り込む。小気味いい音と共にゴミ箱に入ったことに対し、ひゅうと口笛を吹いた。


「そのうち帰ってくるって」
「なにが」
「弾バカに決まってんでしょーが」
「…………」
「名前さんってあいつを励まして送り出しておきながら、すげー心配してんだね」


別に、無意識にそう返そうとしていたが、考えてみれば確かにその通りかもしれない。だからあえて何かを言うことはしないでおく。


「前にあいつが、名前さんは煙草くらいにしか執着しない無欲な人だって言ってたんだけどさ」
「出水が?」
「そう。でも十分執着してるよな、名前さん」
「…禁煙してるし」
「ていうか、恋人に執着するタイプだっての、すげー意外だった」


恋人は大切にしちゃう系なんだ、と感心するよう言う。米屋の特徴的な真っ黒い眼に映る自分の姿を見て、昔のことを思い返す。今までも恋人がいたことはあった。基本、告白するのもあっちから、別れを切り出すのもあっちからだった。付き合い方は至って普通だったと思うけど、俺には執着のしの字もなかったな。


「うわ、名前さんモテるなぁ」
「別れ際に、本当に私のことが好きなの!?ってビンタされたこともあるぞ」
「なにそれウケる」
「そりゃあ付き合ってたんだから、好きだったとは思うけど」
「ふわっとしてるし」
「このこと、出水に言うなよ」
「なんで?」
「嫌だろ、昔の恋人の話とか」
「これは喜ぶと思うけど。だってあいつは名前さんの特別なワケでしょ」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだよ」


特別、とくべつ。確かに、そうなんだろう。今までの恋人に少しの間会えなくても、イライラしたりすることはなかった。そうだ、俺は今イライラしてたんだ。隣には米屋、ちょうどいい。


「おい、ちょっと付き合え」
「なにに?」
「模擬戦」
「えっ!名前さん相手してくれんの!」
「発散させて」
「名前さんのストレス発散のために弄ばれる」
「弄ばせて、痛くしないから」
「弾バカが帰ってきたらチクるわ」
「いくらでもどうぞ」
「余裕かよ」


150713
出水がいない


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