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「は?なにそれ」
「名前さん怒んないでよ。つまり、隊員の意欲向上のためのイベントみたいな感じ?」
「そうだな。楽しそうでいいじゃねーか」
「他人事でしょ、林藤さん」
「すまない。根付さんも鬼怒田さんも乗り気で、城戸さんも否定してこないんだ」
「忍田さん、俺別に怒ってないよ」
「S級ってのがどんなのか、訓練生に見せておきたいってのもあるんでしょ?」
「まぁ、それもあるな」


そして開催されたボーダー隊員内イベント。ルールは簡単。S級隊員の迅・名前のどちらかからハチマキを奪うというもの。奪取方法は問わない。自由参加で、隊や階級問わずに4人とオペレーター1人まででチームを組んで参加することが可能。ハンデとしてB級隊員のみの場合は2チーム合同で参加することを可能とする。加えて、迅・名前はオペレーターと通信をすることができない。勝者には、本人の望んだものが与えられる。


「無理な賞品にして、遠回しに俺らに負けるなって言ってんのかな」
「そうじゃない?」
「負けなかったら俺は休みもらおっと」
「じゃあ俺はぼんち〜」


そんな会話をしている二人だが、絶賛戦闘中だ。自由参加の例のイベント戦たが、A級B級を中心に褒美に目が眩んだ隊員、はたまたS級への力試しがしたい血気盛んな隊員を中心になかなかの盛り上がりを見せていた。興味がなかったり、そもそも最初から勝てる気がしなかった不参加の隊員でも、戦闘の様子が中継されている大型モニターを前に、各々この行事を楽しんでる。B級隊員を全員緊急脱出させ、一息ついた名前は、取り出した煙草に火を付けた。


「禁煙してるんじゃなかったっけ?」
「トリオン体だから良いかなって思う」
「ていうか持ち歩いてたんだ」
「始まる前に洸太郎に強請ったらくれた」
「ふーん」


次のイベント戦を開始する旨のアナウンスが流れ、参加者である隊員が転送されてきた。その様子を眺めながら、2人しか転送されていないことに気付いて、ラッキーと思うのも束の間。


「名前さん煙草!!」
「げっ」
「火をつけるとこも中継されてんだよなぁ、名前さん」
「トリオン体だからってダメですよ!」
「ぶふっ、バレてるじゃん」


転送されてきたのは太刀川と出水だった。念を押すように名前の名を呼ぶ出水に、「…はい」と携帯灰皿で火を消す。そんな名前の様子に太刀川は爆笑しながら、音声まで中継されてなくてよかったね、と言う。つまり外野は、こいつら戦いもせずになにやってんだ?といった状況である。迅はふと名前の姿を見て「あ、」と小さく声を漏らした。


「名前さん、」
「迅の相手は俺だぞ」
「うげ」


弧月を抜いた太刀川は迅に向かっていき、面倒なのが来たと眉を歪ませた迅は逃げるように屋根の上を渡りながら風刃を起動した。そんな迅に「ご愁傷様」と思いながら、名前は出水に向き合った。


「やる?」
「うん、やる」
「そうか」
「あ、名前さん」


出水はすたすたと名前に近寄り、耳元に口を寄せて囁いた。


「俺が勝ったら、俺とえっちしてください」


ぴたりと動きを止めた名前から、するりとハチマキを取った。迅はその様子を屋根の上で太刀川の攻撃をいなしながら見ていた。全然満足していないであろう太刀川に「残念だけど、終わったみたい」と言って名前の隣に降り立つ。


「名前さん」
「……悠一」
「うわ、泣きそうだし」
「出水が、出水が!」
「そうだね、視えてたよ」


迅に宥められる名前を、自分のせいじゃないですと言わんばかりの表情で見つめる出水。


「よくやった出水!」
「うっす」
「おい、てめーの入れ知恵か太刀川!」
「俺らが勝ったってことには変わりないんだよなぁ、名前さん?」
「あー!くそ!」
「じゃあ名前さん、外で待ってますね」


珍しいことに大きく取り乱した名前は、嬉々として転送されていく太刀川隊の2人を見ながら地団駄を踏んだ。


「まあまあ名前さん、さっさと終わらせちゃおうよ」
「…そうだな、そうだよな、わかった」


・・・


あれから数組の隊が挑戦してきたが、2人に対して勝利を収めた者はいなかった。忍田本部長が挨拶をして締めくくった後、多くの隊員たちの頭を埋め尽くしたのは「やっぱりS級って強いんだな」という尊敬と、「太刀川隊はどんな作戦を立てたんだ」という畏怖の念ばかりであった。


「俺、名前さんとも戦りたかったな」
「俺はそう思わない」
「いじけんなよ」
「うるせ」
「あ、太刀川さんと出水は何が欲しいわけ?伝えておくよ」
「俺は名前さんにレポートを手伝ってもらう券が欲しい」
「ざっけんな太刀川!」
「名前さんに手伝ってもらったレポートの評価の良さといったら」
「お前さぁ…」


呆れる名前の前で、だってなんでもいいんでしょ?と口角を上げる太刀川。迅は諦めるしかないね、と他人事のようにからからと笑った。


「出水は?」
「俺は、どうしよっかな」
「なんでもいいんだぞ」
「じゃあ、俺は名前さんの休みが欲しい」
「………分かった、いくらでもやる」
「「おー」」
「リアクションやめてくれない!?」


太刀川と迅に文句を言いながら、帰るぞと出水の手を引いて歩いていく名前。そんな彼らの姿を見て、太刀川と迅はなんだか感慨深い思いを抱いていた。


「太刀川さん、出水になんて言えって言ったの?」
「視えてないのか?」
「ハチマキ取るところしか視てない」
「俺は名前さんの動きが止まるようなこと言え、としか言ってない」
「…アレ、動きが止まる以上に、頭が真っ白になってたんだけど」
「なんて言ったんだろうなぁ」


・・・


2人は家に帰るために、夜の警戒区域を歩いていた。


「出水、アレ、なんだったの」
「太刀川さんと作戦を立てまして」
「やっぱり、太刀川か」
「でもあの言葉は俺が考えましたよ」
「……は?」
「…だって、名前さんが奥手だから」


出水は合わせていた視線をそっと外す。目を見開く名前は、目眩がしそうになっていた。それは夏の夜の蒸し暑さのせいだと思いたい。あの時、己の頭を真っ白にしたのは、この幼気な17歳の少年の言葉だったのか。大抵のことには顔色変えない自信があるが、あのザマだ。自分は相当彼に熱を上げているらしい。


「しかも俺の勝ちですし」
「それって挑発?」
「まぁ、そうっすね」


はぁーと深く息を吐いた名前に、出水は不安そうに目を向けた。それに気付いた名前は、出水の手を取り静かに口を開く。


「俺だって、何も考えてないわけじゃないよ」
「え、そうなんですか?」
「一応男だよ、俺も…って、なにその意外そうな顔は」
「…だって、名前さんキスしかしてこないし」


不服そうに唇を尖らせる出水を見て、名前は素直に「こいつ可愛いな」と思っていた。繋いだ手はそのままに、2人は街灯の下を歩く。名前のマンションまではまだ少しかかる。


「逆だろ、逆」
「なにが?」
「もう少し俺に大切にされとけって言ってんの」


薄く笑みを浮かべなからそのセリフを言う名前に、たまらなく胸を打たれた出水は「名前さんかっこいい!好き!」といつものように声をあげる。街灯に照らされた名前と出水の影が、静かに重なった。



150602
チームS級ってチートぽくてかっこいいなぁと思って、SSS用に書いてたらぐだぐだ長くなったのでこちらに。閑話ですね。シリーズの時間軸はまだ遠征前です。


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