zzz | ナノ




最悪最悪最悪!やってられるかっての!!私が廊下を大股で歩くと、C級隊員が壁際に寄り距離を取られた。なんだってんだ。そんなに怖い顔をしているのか、私は。でもそれにはちゃんと理由があるんだよ。話しかけることはせず、心の中で弁解をした。事の発端は数分前、ラウンジで諏訪さんと東さんに会ったことだ。


「名前じゃないか」
「東さん、こんにちは!」
「おー名前、相変わらずでけえなあ」
「……………」


この男。そう、私は人よりちょっとばかし胸が大きい。それは誤魔化しようのない事実だ。だからって本人が気にしている、いわゆるコンプレックスに対して面白おかしくいじるのはどうなんだ。私は全く面白おかしくないし、これは一度二度のことじゃない。本部で会っても、大学で会ってもこれだ。このおっぱいおばけめ、いい加減にしてほしい。


「…ちょっと諏訪さん、それセクハラですよ?分かってます?」
「でも本当のことだからなぁ」
「……いい加減にしてくでさいよ」
「お前の第一印象って大抵がそれだろ」
「そんなことないですもん」
「顔は普通に可愛いんだけどなぁ…そっちばっか印象に残る」
「………」
「ねぇ、東さん」
「あー………、うん」


決まり悪そうに眉を下げる東さん。東さんまで、そんな、信じてたのに。おっぱいおばけばかりか、ここは。


「世の中にはそれ目当ての男ばっかりだからな、気をつけろよー」
「……ッ諏訪さんのバーカ!!!」


そう叫んでから走り出して今に至る。周りには人がいなくて、とても静かだ。ずいぶん端の方まで歩いてきたんだと分かる。その静寂さに背中を押されるように、ぼろぼろと涙が出てきた。止めようと思っても止まる気配のないそれに、諦めて廊下の隅で縮こまる。ひどいじゃないか、あんな。嗚咽を噛み殺しながら、膝に顔を埋めた。


「どうしたの、名前」
「……う、だれ」
「俺」


頭の上から聞こえた声に顔を上げるが、涙で霞んで見えない。その人は屈んで、「あー、こんなに泣いて」と親指で私の涙を拭った。明瞭になった視界には、青。


「………じん」
「泣くな、名前」
「う、うえ、っく」
「なにがあった…かは、諏訪さんに会ったから知ってるけどさ」
「……う、ん」


よっこいしょと、隣に座った迅は同い年のよしみというか、初期の頃に年が近いことをキッカケに仲良くなった。どうやら励ましに来てくれたらしい。迅は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら言う。


「そればっかり見てない奴もちゃんといるから安心しなよ、俺とかさ」
「……っ、迅は、…おっぱいおばけじゃないの」
「俺はお尻が好き」
「……それもどうなの」
「お、泣き止んだ」


迅が腰を上げる。「じゃあ俺は行くわ」と手を振りながら、いつものヘラヘラとした笑顔で去っていく。そのタイミングの不自然さにぽかんとしながら後ろ姿を見つめていると、遠くから見覚えのある赤いシルエットが走って来ていた。


「名前!」
「うわ、准」
「…迅のメールで、泣いてるって」


私の顔を覗き込んだ准は、ひどく心配そうな顔をしていた。それが拍車をかけるように、先ほどのことを思い出してまた視界がぼやけてくる。周りからしたらなんてことのない冗談なのだろうが、私にとってそれは屈辱的な言葉であった。准は焦ったように、私を抱きしめて安心させるように背中を撫でる。彼の体温を近くに感じることで、単純にもすぐに涙は止まった。


「……准は、なんで私と付き合ってるの?」
「それは、どういう」
「諏訪さんが、おっぱい目当ての男しかいないって」
「…………」
「…いや、准がそうじゃないのは分かってるけど、それなら私のなにがいいのかな、と思って」


私を見つめたまま複雑そうな表情を見せる彼に焦って訂正をする。准がそういう類の人間でないことくらい、出会った時から分かっていた。元から静かなこの場所が、余計に静かになったように感じる。


「名前だから、いいんだよ」
「……准、」
「とても楽しそうに模擬戦をするところだろ。訓練生の指導で内心すごくはしゃいでるところ、後輩にしっかりしてる姿を見せようと頑張っているところ。でも意外と抜けていてレポートがギリギリになってしまったり、講義で眠気と戦っているところも。あと、」
「も、もういい、もういいから…!」
「そうか?」


きょとん、といった表情を見せる准。まだまだあるぞ、もしくはまだまだ言い足りないぞ、という顔だろうか。


「…ありがと、准」
「俺としては迅よりも早く駆けつけたかったんだが」
「次は頑張ってみて」
「はは、次はないといいな」
「ね、ぎゅってして?」
「もちろん」


再び私を抱きしめる准の首に腕を回してぎゅうぎゅうと抱きつく。先ほど、あれだけ悔しくて悲しくてたまらなかったことが「まあいいや」で片付けられる私は単純だと思う。でも准を見ていたら、ああなりたい、こうなりたいという思いも意志も薄れてしまうのだから仕方ない。そんな幸せで心がぽかぽかするのを感じながら、抱きつく腕の力を強めた。


「……名前、わざとだろ」
「あ、ばれた?」



(諏訪さん、うちの名前に変なこと言うのやめてね)
(今度また泣かせたら俺も怒りますよ)
(悪かったって、お前らこえーよ)

150518
おっぱい押し付けられても顔色を変えない嵐山さんと双子セコムを描きたかった。諏訪さんごめん。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -