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「玉狛に顔出すか」
「え、いいの?」
「うん」


昨日作ったカレーを食べながら、悠一が提案したことに驚いてスプーンを落とした。ルーの上に落ちたそれは、特に辺りを汚すわけでも無く静かに沈んでいく。


「行きたいでしょ?」
「行きたい!」
「じゃあ、行こう」


悠一はぼんち揚げのストックを取りに行きたいのかもしれないが、別にそんなことはいいのだ。行きたいなんて言葉にしてないのにな。なんで気付いてくれるんだろう。それがただ嬉しかった。悠一は片手で携帯を操作して、どこかに電話を掛けている。


「宇佐美?」
「栞ちゃん!」
「あー…そう、うん。いつものな。今日はそっち行くよ。ところで、レイジさんいる?…あ、頼む」
「栞ちゃん元気?」
「レイジさん、今日非番?あ、うん。…オムライス作って欲しいんだけど、2人分。…うん、そう。頼める?」
「オムライス!」


私の質問に頷きながら受け答えする悠一。レイジさんのオムライス。私の大好物で、玉狛支部の夕食がオムライスの時に毎回お邪魔していた。正しくは私が行く時は夕食をオムライスにしてくれていた、かもしれないけど。でも、そんなこと頼んだら、不自然すぎないだろうか。いや、嬉しいけど!じゃあお願いね、と電話を切る彼を見ながら思った。


「変だと思われるよ」
「そこは多分大丈夫だから」
「うーん、そうなのかな」
「そうそう」


・・・


食器も洗ったし、部屋の片付けも終わった。定期的に無人の期間があるこの部屋だが、これでまだ諦めずに毎日主人の帰りを待つことができるだろうと思う。


「お土産、買ってこうよ」
「ん、別にいいけど」


外に出た時にはもう太陽は沈みかけていた。玉狛支部に向かう道すがら、通りかかった和菓子屋を指差す。そこで、どら焼きとおはぎを買った。おはぎは私が食べたくて。これで桐絵も喜ぶだろう。


「ただいまー」


玉狛支部に我が家のように堂々と入っていく悠一の後ろで、彼のジャケットの裾を握ってきょろきょろと室内を見渡す私はきっとひどく滑稽だろう。悠一以外に見えてないんだから、気にしなくていいのに。本部の人間である私は、ここに来るといつもこんな感じだ。久しぶりに遊びに来た親戚の家のように緊張している。悠一はそんな私を見て面白そうに笑うのだ。


「迅さん2日ぶりだよ〜!」
「んー、いつもの暗躍だって言ったろ。これ、お土産」
「やった!入って入って!」


リビングに通されると、玉狛に新しくやってきた三人組と京介がオムライスを食べていた。あー、もしかして遊真くん身長伸びた?悠一の肩をぱしぱしと叩きながら言う。


「遊真、身長伸び…てないよな、うん」
「?」


自問自答をする悠一に遊真くんと修くんが首を傾げた。あはは、ごめんごめん。冗談だよ。その様子が面白すぎて一人で笑っていると悠一に睨まれた。


「迅さん、なんか久しぶりっすね」
「おー京介。訓練はどんな感じだ?」
「まぁ、はい」
「…………ごめんなさい」


京介の言葉に、修くんが申し訳なさそうに謝る。まぁ気長に頑張れよ、と悠一が励ますが修くんの表情は変わらなかった。京介、相変わらずイケメンだねぇ。そう感心するように言えば、悠一はさり気なくため息を吐いた。


「そう言えば、レイジさんから」
「お、さんきゅ」


テーブルに置いてあった紙袋を渡して、京介は玉狛第二の三人組を連れて出て行った。訓練だろうか。京介と入れ違いで、栞ちゃんが入ってきた。


「迅さん、なにか食べる?」
「あ、おはぎ貰う」
「はいよー!」


栞ちゃんは白い箱から取り出したおはぎを小皿に乗せて悠一に渡した。わ、もしかして。悠一はそれを受け取りながら、私を見て微笑んだ。私が食べていいらしい。やった、嬉しいな。


「あ、まだ温かい」
「レイジさん、出掛ける寸前に作ってくれたんだね」
「良かったな」


相変わらず悠一の部屋は、ぼんち揚げの箱の存在感がすごい。これのせいで部屋が狭く感じるのかもしれない。その箱をテーブル代わりにして、紙袋の中からタッパーを二つ取り出す。中にはオムライスとサラダが入っていた。お弁当みたい。冷めるよと渡されたスプーンを受け取って、手を合わせる。


「いただきます」
「はい」
「んー、これ、相変わらず美味しい!」
「良かったな」


一口頬張れば、口中に広がるチキンライスの酸味と甘み。ふわふわとしたたまごのバターの風味もたまらない。お母さんの作るオムライス、よりも美味しい洋食屋さんの完成されたオムライスって感じ。毎日でも食べたいくらいだ。そんなことを一方的にペラペラと口にしながら、ぺろりと完食してしまう。「ほんと好きなんだなぁ」と笑いながら渡されたおはぎも美味しくいただいた。


「あー、しあわせ」
「そりゃよかったな」


んふふ、笑いながら悠一のベッドに腰掛ける。ここから見たら、ぼんち揚げの箱の威圧感がやばい。不安になりそう。そういえばぼんち揚げってなかなかのカロリーなんだよね、そう言おうと思って顔を上げると、悠一が目の前に立っていて吃驚した。


「なに、びっくりした」
「名前さぁ」
「なに?」
「彼氏の前で、他の男をかっこいいとか言うのはどうなんでしょうね」
「え?」


もしかして京介のこと?そう言葉にする前に、悠一に唇を塞がれた。私をベッドに押し倒しながら口内を好き勝手弄んで、息が続かなくなった頃合いで解放される。あ、やばい。悠一が心底楽しそうな顔をしている。


「名前の声、俺以外に聞こえないから我慢しなくていいよ」


ちょっと待った、文句を言おうとしたらまたキスをされる。拒否権はないらしい。私は腹をくくって、もとい諦めて、彼の体温を享受する。


150505
title バニラ


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