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「ゆういちー、起きてー」
「……ッ、」
「わ、びっくりした」


肩を優しく揺らすと、勢いよく上体を起こされてびっくりした。数秒間、じっと私の顔を見つめて固まる悠一。私がいることに驚いたのかな。昨日のことを思い出したのか、私の頬をなでながら息を吐く。


「…ごめん、びっくりした」
「いいよ。読めなかったんだ」
「いや、読めないというか、名前の未来は全く見えないんだ」
「そうなの?」
「昨日だって、こっちに来るとなにかあるって未来が見えただけだから」
「それだけで来てくれたんだ、嬉しい」


素直にそう言えば、悠一は照れてるのか「…うるさい」と言いながら逃げるように立ち上がり顔を洗いに行った。あ、耳赤い。リビングに移動してテレビを点けると、ちょうど私が見ていたアニメが入っていた。最後に見たのは確か2話とかだったな。リモコンを操作して番組表を確認すると、これから始まるのは8話らしい。見たことのないキャラもいるし。見るのやめようかな。


「黒髪の子がタイプだろ」
「よく分かったね」
「ネタバレしていい?」
「やだ!」


反射的に否定をしておいてはたと気付く。あれ、別にそんなことを気にする意味がないんじゃないか。あのアニメの続きも、読んでいた推理小説の犯人も、いつ消えてしまうのか分からない私が知ることはないんだから。


「名前、お腹空いた?」
「ん、え?」
「昨日ちゃんとおしるこ飲み切ってただろ。だから、お腹は空くのかなって」
「…あー、空腹とかは感じないけど」
「食べれるってことだな」
「まぁ、うん」
「買い物行こうか」


・・・


「ほんとに見えてないんだな」
「1人で喋ってる変な人みたいになるよ、悠一」
「別にいい」


そう言って私の手を引いて近所のスーパーの自動ドアをくぐる悠一。入り口でカゴを取って、野菜を放り込んでいる。


「適当に選んでる?」
「あれ作ってよ、なんだっけ」
「なに?」
「ナスと、カボチャと」
「夏野菜のカレーだ」
「そうそう、名前のカレー」
「キャベツはいらないから戻して」


ナスとカボチャ、玉ねぎ、パプリカにトマト。鮮やかになったカゴの中身を見てから、野菜コーナーから移動して鶏肉を手に取る。私は悠一の隣で見ているだけだけど。あ、お菓子コーナー。悠一の青いジャケットの裾を引っ張って「お菓子、見てくる」と告げてから離れようとすると、カゴを持っていない方の手で右手を掴まれる。


「だめ、離れんな」
「すぐ戻ってくるって」
「戻ってこないかもしれない」


ああ、そうか。その言葉が、私の中にすとんと落ちてくる。悠一はふらりと現れた私が、またふらりといなくなってしまうことが心配なのか。


「後で一緒に行こ」
「どうせチョコが挟まってるやつでしょ」
「よく分かったね」
「分かるよ、名前のことは」
「うん」


後ろにぴたりとくっついていることにすると、悠一は満足そうに笑った。カレーに必要なものをカゴに入れて、お菓子コーナーに移動する。ぼんち揚げを手に取る悠一に「ストックないの?」と聞けば、玉狛にしかないらしい。取りに行けばいいのに。今日食べる分がないでしょ、と私が間違ってるみたいな言い方をされる。


「カレーは夕飯だよね」
「じゃあ朝ごはん…いや、昼ごはんか」
「うどんでも作ろうか?」
「うん」


買い物帰り、レジ袋の中からぼんち揚げの袋を取り出して封を切る悠一。やっぱり我慢できなかったか。差し出された袋に手を入れながら、仕方なく私も笑った。


150504
ホルン美味しいです
title バニラ


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