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「名前さんが禁煙!?」
「ちょ、太刀川うるさい」


俺の肩を掴み、ガクガクと前後に揺らしてくるこの男。大学で顔を合わて、何の気なしに禁煙してる旨を伝えた。ていうかそんなに予想外なのか、俺が煙草をやめることが。太刀川の声を聞いた同じ講義を受けている顔見知りの女子3人も驚いたのか、わざわざ話し掛けてくる。それくらい予想外なのか。


「苗字くん、最近喫煙所にいないもんねー」
「なんでなんで?」
「恋人が出来たからな、名前さんは」
「……太刀川」
「え、ほんと!?」


太刀川を睨むと、素知らぬ顔で視線を合わせようとしない。ていうか気付いてたのかよ。女子っていうのは、何歳になっても他人の色恋沙汰が大好きなようだ。未来視のサイドエフェクトはないが、あれやこれやと面倒な質問をされる未来が見えた。


「なんて子?」
「出水、って子」
「なんでお前が答えるんだよ」
「だって名前さん、素直に答えないと思って」
「…答えるよ」
「イズミちゃんって一年にいるよね」
「その子じゃないよ。高2だし」
「高校生!?苗字くんは年下好き?実際、17歳ってなかなか危ないわよね」
「そういうのじゃなくて、あいつだったから好きになっただけ」


ヒュー、太刀川が口で言う。ほんとこいつ後で覚えとけよ。当分はレポート手伝ってやらないからな。


「どんな子なの?」
「え、どんな子って」
「性格とかあるじゃん」
「…器用で活発、好き嫌いがハッキリしてるし、好きなものには全力」
「なんか意外。苗字くんはしおらしい小動物みたいな可愛い子がタイプだと思ってた」
「いや、俺のタイプは真逆だけど」


どうしてそんな風に見えるのか知らないが、俺のタイプは自分の意見が言える積極的な子だ。自分が押しに弱いと分かっているからこそぐいぐい来て欲しい。俺の言葉に納得したのか、はたまた特にこれ以上質問が無くなったのか知らないが、彼女たちは去っていく。思い出したように「もう合コン誘わないね」と言われるが、誘われるたびに断ってただろうが。


「いやぁ、名前さんもなかなか出水が大好きだな」
「お前なぁ」
「でも良かったじゃん。もう合コン誘われないらしいし」
「まぁそうだけど」
「たまたま話し声聞こえたから知ってるんだけど、さっきのパーマの子が名前さん狙ってたらしいよ」
「はぁ?」
「出水も余計な心配しなくてすむし、良かったな!」


次の講義があるから!とにくたらしい笑顔で離れていく太刀川に眉を顰める。あいつ、自分を無理矢理正当化して去って行きやがった。


・・・


「って、太刀川さんから聞きました」
「あいつ!!!」


任務帰りに俺の家に来ていた出水が、ソファに座るやいなや「名前さん、俺のこと大好きなんですね〜」と楽しそうに言うから少し動揺した。太刀川から事細かに聞いたらしい。面白そうに喋るあいつの姿が目に浮かんで、拳に力が入った。


「……嬉しそうな顔して」
「だって」
「好きだよ、俺は」


俺の言葉に出水はにへらと笑って「おれも大好きですよ!」と言ってのけた。未だにこいつの照れるポイントと喜ぶポイントの違いが分からない。まぁ、表情が豊かなのはいいことだ。


「名前さんはいつから俺のこと好きなんですか?」
「2年くらい前」
「え!それ、結構長くない…?」
「そうかもな」
「意外と早く絆されてくれたんすね」
「…うるさい」
「でも、なんで、付き合ってくれたんですか」


俺だって色々考えてたんだぞ。性別とか年齢とか、その他もろもろ。でも太刀川とか、悠一とか、俺にやいのやいの言ってくるし。出水を見てたら、大切にしてえなって思ったし。だからお前には煙草の煙も吸わせたくなかったし、禁煙する気にもなったんだけど。


「名前さん…」
「でもあの告白は完全に酔った勢いだった」
「雰囲気!」
「本当のことだ」
「…………名前さん」
「でも後悔はしてないから」


ちゅ、と触れるだけのキスを落とす。出水は少しは慣れたのか、「まだちょっと苦いっすね」と自分の唇をぺろりと舐めた。


「名前さん、合コンとか行くんですね」
「誘われるけど、全部断ってるから」
「行かないでくださいね」
「いいけどお前、別れたいとか言うなよ。俺はいいよって言っちゃうから」
「引き止めてくれないの?」
「出水の頼みなら聞いちゃうってこと」
「……もっかいキスして」
「はいはい」


150503
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