zzz | ナノ




じりじりと音が聞こえるような夏の日差し。私はアスファルトの上に立っていた。

ここはどこだろう。周囲には鉄筋が飛び出たコンクリートの瓦礫が散乱し、誰も住んでいないようなボロボロのアパート。ここは警戒区域だ。なんで私はこんなところにいるんだろう。遠くで聞こえるアブラゼミの鳴き声に、誰も住んでいない場所にも夏は来るのかと当たり前のことに驚いた。ここに来る前、私はなにをやっていたんだっけ。うーん、唸りながら考える。


「あ、私、事故に遭ったんだ」


そういえばそうだった。確か、私は事故に遭って、救急車で運ばれて、それから。そこで記憶は途切れている。いや、正しくは記憶は終わっている、だろうか。その記憶と今の現状を見て、少し前に見たアニメを思い出した。死んだ女の子が会いに来るってやつ。

あ、じゃあ私も死んでるのか。手首に触れてみても、脈拍のどくどくという感覚はない。そういえば体温も感じない。なんだ、死んでしまったのか。もともと生に固執しながら生きてきた訳でもないし、ボーダーという組織に属しているんだから、それなりに覚悟はしていた。考えることは、残してきた家族と飼い猫のこととか、友人のこと。大学、1年しか行けなかったな。太刀川さんの単位は大丈夫かな、大丈夫じゃないだろうな。出水と米屋と緑川と模擬戦の約束してたっけ。准の出てる番組、もう見れないのかな。レイジさんの手料理もっと食べたかったな。エトセトラ、エトセトラ。あと、最後に大切なあの子とのこと。


「悠一、泣いてないかな」


今の現在地やら方角やらを案内してくれるオペレーターはもういないが、歩いていれば見覚えのある場所にたどり着けるだろう。時間はたっぷりある(と思う)し、心臓の動いてないこの体なら疲れることもないだろう。そう意気込んで、焼け付くような太陽の下、日焼けの心配もせずに私は足を動かした。


154028
オマージュのような、そうでもないような夏の話
title バニラ


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -