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「………ん、…」


カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさで目が覚めた。朝日、というか、陽の高さからしてもうお昼だろうか。まだぼんやりとする目に日の光は眩しすぎる。逃げるように寝返りをうてば、人のぬくもりを感じた。…ぬくもり?


「……!!!??!」


自分以外の体温。同じベッドですやすやと寝息を立てる存在に、嫌でも眠気が覚めてしまう。やってしまった。ていうか、誰だ、これ。なかなか整った顔立ちに、黒い髪の毛。ちらりと覗く肩口と顔にかかる前髪がやけに色っぽい。枕の上の方に、プラスチックのなにかがある。あ、カチューシャだ。待て待て、黒髪、カチューシャといえば。その2点で連想される人物は一人くらいしかいない。米屋陽介、ただ一人だ。ああ、本格的にやってしまった。昨日は非番の隊員でご飯を食べに行った。うっすらとしか残っていない記憶と、こめかみあたりに感じる鈍い痛みが、お酒を飲んだという事実を伝えてくる。酔った勢いで、なんて馬鹿な。しかも相手は後輩の高校生、17歳だ。もう、なんて馬鹿な。


「っはは、なに百面相してんすか」
「ヒッ!」
「名前さん、おはよ」
「っごめんなさい!!」


誠心誠意の土下座。もともと無いようなプライドを投げ捨て、額をベッドに擦り付ける。昨日は酔ってる私をここまで送ってくれてありがとう。そして米屋がわざわざベッドにまで連れてきてくれたのに私がなにか余計なことでも言ったんでしょう。最近は色恋沙汰のいの字もないくらい忙しくて、というか一般人と出会う機会もなくてですね。前の彼氏と別れたっきりで色々と溜まってたのかもしれないし、いや、だからって年下を無理矢理どうのこうのしていいなんて言ってるわけじゃないんですけれど、私が先輩だから蔑ろに出来ないであろう米屋に、あぁ私はなんてことを!周りからお前が酔うとタチが悪いって言われてたのに!彼女さんにも申し訳ないし、お金だけはあるからせめて、責任を、


「名前さん、落ち着いてよ」
「いやいや落ち着いてられないから!」
「名前さんさ、ちゃんと服着てるっしょ?名前さんの言ってるようなことはなにもしてないよ」
「っへ!?」


バッ!と音が聞こえそうなくらいの勢いで、己の体を見ると確かにしっかりと服を着ているではないか。


「でも、米屋は!?」
「俺は学ランだったから、下は名前さんのスウェット借りた」
「え、あぁ…」


そういえば、クローゼットの取っ手に黒い学生服がハンガーで吊るされている。あれ、ということは、本当に何もなかった?ただ私が欲求不満かもしれない、みたいなことを勝手にカミングアウトしただけ?米屋はニヤニヤしてるし、うわあこれは、これは恥ずかしすぎる。


「名前さん、欲求不満なら素直にそう言ってくれよ」
「ちが、ちがうってば!言葉の綾でしょ!?あ、そういえば!何もなかったのになんで同じベッドで寝てるの!?」
「あぁ、それね。名前さんがよねやと離れたくない〜一緒に寝てよぉ〜って手を掴んで離さないから」
「!?」
「名前さんが酔うとタチ悪いって言われるのは、とんでもなく甘え上戸になるからだと思うよ」
「穴があったら入りたい」
「手を出さなかった俺を褒めて欲しい。可愛かったなぁ、甘えたな名前さん」


米屋の話は続く。帰ってくる時も手を繋いでとわがままを言ったらしいし、ぺらぺらと米屋のことを褒め続けるし、家に上がってとせがむし、といったようなとんでもない痴態を晒していたらしい。


「…米屋、彼女は」
「いねえよ。俺が好きなのは名前さんだし」
「よかった…………って、え?なんて?」
「だから、俺は名前さんに彼氏がいる頃から名前さんが好きだった、って話だけど」


今の私の顔はひどく間抜けな顔をしていると思う。さすがに米屋の言う「好き」がただのお世話になってる先輩に向ける「好き」じゃないことくらい分かっている。こんな、こんなシチュエーションでの告白なんてされたこともない。


「俺にあんな可愛い姿を見せたんだから、責任取って俺と付き合って」


私が首を縦に降る以外の選択肢を選べないって分かっていて、そんな聞き方をしてくるんだから米屋は狡い。



(あれ、私って昨日はこれと違う服着てたよね?ていうか、これパジャマだし)
(あー、それね)
(……もしかして)
(よねやぁ〜、パジャマ着たい、着替えさせ)
(わかった、もういい、十分です)

150427


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