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「あたしの彼氏が煙草吸っててさぁ」
「あの年上の?」
「そうそう、体に悪いからやめて欲しくって」
「煙草ってヤバいもんねー」


教室でそんな会話を耳にした。そういえば先日、未成年に向けての煙草の危険性についてっていう講習があった気がする。任務で欠席しているんだけど。次の日にその講習で使ったらしいパンフレットを貰ったが、内容をまとめると「煙草は危険!」「周りの人にも迷惑!」「勧められてもNOと言おう!」というところだ。

煙草、と言われて真っ先に脳裏に浮かぶ名前さんの姿。あぁ、でも煙草を吸う名前さんってすごくかっこいいんだよなぁ。遠巻きか、喫煙所のガラス越しでしか見たことがないけど。昔から名前さんは極力俺に煙を吸わせたくないようで、喫煙所に入ってくるなと言うし、俺が近付くと真っ先に煙草の火を消す。体のことを考えるとやめて欲しい気持ちではあるが、基本的に無欲であの煙くらいにしか執着しない彼から煙草を奪うのも心苦しい。


「ってことがあったんですけど」
「……うーん、そうだなぁ」
「……………」
「まぁ前から考えてはいたんだよ、禁煙」
「やっぱり…って、え!?」


てっきり、俺は煙草が好きだからと一刀両断すると思っていた。驚く俺に「そんなに意外かよ」と唇を尖らせる名前さんだが、意外なもんは意外なのだ。現に今だって本部の喫煙所から出てきたところを捕まえて話をしているんだから。


「名前さんがその気なら俺も手伝いますよ!」
「じゃあ禁煙してみるかー」
「でも、なんでそんな気になったんすか?」
「だってさー、これからお前といる時間がもっと増えるだろ?そっちに時間使ってやりたいしな。体の心配もして貰ったし」
「名前さんほんとかっこいい!俺、名前さんの少し煙草の味がするキスも好きでしたよ!」
「お前はなんで俺の決意を揺るがそうとしてくんだよ!」


かくして、名前さんの禁煙が始まった。


・・・


「あれ、名前さん」
「うお」


本部の廊下を歩く名前さんを見つけた。距離を詰めると、なにか違和感を感じる。背後から抱きつくように、名前さんの腰に腕を回してすんすんと匂いを嗅ぐ。名前さん、意外と腰細いなぁ。いつもの柔軟剤の匂い(しろい熊のやつ)が真っ先に鼻腔に広がる。


「名前さん、煙草変えた?」
「…お前はそんなとこまで気付くの」
「チョコレートの匂い」
「これ」


ごそごそとポケットから出した黒い箱。ぶ、ブラック、デ…なんか売れないメタルバンドみたいっすね、そう言うと名前さんは笑う。これが違和感の正体らしい。


「前のは赤いやつでしたよね、なんて言いましたっけ」
「ほんとよく見てるな、出水は。赤いのはラークってやつだよ」
「なんで変えたんすか?」
「少し軽いやつに変えて、本数を減らそうと思って」
「軽い?」
「何mg〜ってのがあんの。前のが12でこれが8」
「へえ、物足りなくないんですか?」
「今のところはな。煙草くれって言ってきた洸太郎にこれ差し出したら甘いって怒られたけど」
「甘いんだ」


煙もチョコレートのように甘いらしい。嗅いでみたいと言っても、絶対にダメと突っぱねられた。ビターチョコレートのようなほろ苦い甘さがあるとか説明されたら、気になってしまうのが俺だ。


「そんなに気になんの」
「だって、甘い味がするとか言われたら気になっちゃうんすけど」
「あ、キスも甘いか試してみるかぁ」
「ちょ、名前さん、ここ廊下ですよ!?」


にやにやと口角を上げながら、近付いてくる名前さん。楽しそうだ。後ずさりしていると、背中が壁に付いた。俺の顔の横に片手を付いた名前さんが、笑みを一層深くする。


「なんちゃって」
「あー!からかったんすか!名前さんのばか!」
「なに、して欲しいの?」
「違いますけど!いや、それも違いますけど!!」
「お前は人前で抱き着くくせに、変なとこは気にすんだね」
「変なとこじゃないでしょ!?」
「分かった、分かった。帰ったらな」


頭をくしゃりと撫でて、離れていく名前さん。あ、今の壁ドンじゃないですか!もう一回!名前さんが噴き出した。



150425
ブラックデビル


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