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「………」


ありのまま今の状況を話すぜ。あれから二人で店内に戻って、飲み会はお開きになった。ぞろぞろと帰路につく隊員もいれば、飲み足りないだなんだと二次会に行くメンバーを募っている隊員もいる。言わずもがな、後者は太刀川さんを筆頭とした成人組だ。太刀川さんはしつこく名前さんも誘っていたが、「勘弁してくれ!泣くぞ!」という必死の抵抗に折れざるを得なくなっていた。

それから二人で帰路に着き、名前さんのマンションの前まで到着した時に「寄ってく?」と誘われ嬉々としてお邪魔させていただいた次第だ。ついでに言うと「帰るの面倒なら泊まってけば」という言葉に、考えるよりも早くこくりと頷いたのだった。


「出水、着替え置いとくから」
「…っはーい!」


ざあざあと大雨が降るかのように、頭上にあるシャワーヘッドから止めどなくお湯が流れる。お湯を止めてバスルームから出ると、蓋が閉じられた洗濯機の上に、綺麗に畳まれたバスタオルと着替えが置いてあった。「苗字」と白い糸で刺繍されている紺色のジャージは、恐らく名前さんの高校の物だろう。進学校ってこんなジャージだったっけ。それに身を包んでリビングに出ると、テレビからはバラエティー番組特有の軽快なBGMと笑い声が聴こえる。それを付けたであろう張本人の姿が見えないと思えば、どうやらベランダで煙草を吸っていたらしい。


「名前さん、シャワーありがとうございました」
「別にいいよ。親御さんには連絡したか?」
「はい、さっきメールしときました」


手にしていたガラス製の重たそうな灰皿に煙草を押し付けながら室内に入ってきた名前さんは、くすりと笑いながら「座れば」と言った。別に名前さんの家に来るのは初めてでもないし、何度もこのネイビーのカウチソファに座っているのだが。


「なに、緊張してんの」
「そりゃあ名前さん、俺だって人間ですし」
「いつもの勢いはどこに行ったんだか」
「だって名前さん!」


今まで安売りかと言われるくらいには好き好き言ってきた。それはどうしようもなく溢れた気持ちが8割と、勢いで絆してやろうという気持ちが2割だ。それがついさっき、俺の溢れた気持ちに対してのレスポンスがやっときたワケ。緊張だってするでしょ。


「別に、取って食ったりしないよ」
「名前さん、俺たち付き合ってんですか」
「…あぁ、ごほん」
「?」
「出水くんが好きです、絶対に後悔させないので俺と付き合ってくださいませんか」


ソファに座った俺の前にしゃがんだ名前さんが柔らかい表情で言う。高鳴る心臓の音が自分でも聞こえてくるようだ。


「…名前さん、宜しくお願いします」
「うん、任せろ」
「これからは、甘えていいんですか」
「普段のってお前的には甘えてないの?」
「一緒にご飯」
「この前も食べたじゃん」
「…あー、じゃあデートは?」
「今までも二人で出掛けたりしたろ」
「抱きしめていい?」
「お前所構わず抱きついてくるじゃん」
「……じゃあなに!キスしてくれる!?」


恋人らしい行動をいくつか言っても、前からしてんじゃんと突っぱねられる。そうじゃん!前からそんなことばっかしてたわ!意外と思い付かなくて半ば自棄になって言い放ったそれだが、数秒たって自分がなかなか恥ずかしい発言をしたと気付いた。おねだりのような提案に、名前さんがにやにやと悪戯っ子のような顔をする。


「して欲しいんだ」
「ちょ、あの、言葉の綾みたいな!」
「お前ほんと可愛いね」
「わ、近っ」


いやにハッキリと俺の耳に届いたリップ音。離れていく名前さんからは仄かにシャンプーと煙草の香りがした。軽く触れるだけの可愛いキスだった。それでも、俺が更にテンパる要素として十分で、


「あああ名前さん!今、え!?」
「そんな初めてでもあるまいに…………初めて?」
「………です」
「うわ、意外…」
「だって名前さんの弟子になってからずっと名前さんだけが好きなんですよ!なんで他の人とキスしなきゃいけないんすか!」
「お前俺のこと大好きだな」
「今更っすか!どうせ名前さんは経験豊富でしょうが、俺は違いますからねッ!」
「いやまぁ、そんな豊富な経験もないけど、俺の初めてあげられなくてごめんな」
「………最後にキスしたのいつ」
「…それ聞く?」


名前さんの顔が一気に曇る。心底うんざりしたような、疲れ切ったような表情にどんなに嫌な思い出なんだと、湧いてしまった好奇心には逆らえず言葉を急かす。


「……先月」
「うわ、最近じゃないすか!」
「先月の飲み会で、酔った太刀川に」
「なんでだよ!!!」


なにやってんだよあの人!正直、少し妬いたわ!名前さんは「でも出水で口直しできた」と子供みたいな笑顔で言って俺をきゅんとさせた直後に、「あ、出水も太刀川と間接キスってことに」とかわざわざ余計なことを言う。この複雑な感情はどうしたらいいんだ。


「もうダメっすよ、俺以外としちゃ」
「もちろん」


満足そうに笑った名前さんは、俺の頭を撫でながら立ち上がった。風呂に入るらしい。思い出したように、俺のベッド使っていいよと言うけど、そんな簡単なことじゃない気がする。名前さんの匂いがする部屋の中で、内心頭を抱えた。


「…名前さんは?」
「ソファでいい」
「え、一緒に寝ますか」
「……頼むから大人しくベッドで寝てくれ」



150425
次から本編(禁煙)します!


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