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ボーダー隊員揃っての親睦会、もとい飲み会。成人組は未成年がいるからお酒を控える、なんてことはなくて。むしろ飲まないやつが居るから安心だと言わんばかりに酒を煽っていた。


「出水!お前も飲め!」
「俺は高校生っすよ、太刀川さん!」
「まじでか!」
「あんた大丈夫か」


酒が回ったのか、楽しそうに俺に酒を勧めてくる太刀川さんはとても面倒くさい。珍しく風間さんも酔っているようだし、俺の隣にいる名前さんなんて諏訪さんにガンガン飲まされて、今ではテーブルに項垂れている。別に弱くないはずなのに、どんだけ飲まされたんだ。


「名前さん!出水のために注いだんだけど、こいつ飲めねえから代わりに飲んで!」
「やめてあげて!」
「……おう」
「名前さん、やめた方が…」
「…うるさい」


半ば奪い取るようにしてグラスを受け取り、ごくごくと飲み干す名前さん。ヒュー!と口笛を吹く太刀川さんは他人事だ。もう飲みたくないと言いつつも完全に目が座ってる名前さんに、「だからやめろって言ったのに」と小声で呟いた。


「おーい、弾バカー!」


呼ばれた方に目を向けると槍バカが手を振っていた。三輪隊を中心にした未成年組のテーブルだ。「おぉ、行ってこい行ってこい」と相変わらず上機嫌に笑う太刀川さんに頷いて席を立った。あまり名前さんに飲ませすぎないで、と効果が見込めない忠告をしておこう。


・・・


「あれ、名前さんは?」
「外で煙草吸ってるぞ」


特定の人に対して質問した訳でもないが、親切に回答してくれたのは風間さんだった。うちの隊長においては、まともな質疑応答すら危うそうなくらいだ。名前さんは大丈夫だろうか。煙草の火で火傷とかしないといいけど。…だめだ、様子を見に行こう。誰に言うでもなく、席を外す旨を口に出してから俺も外に出た。

店内の喧騒とは打って変わって、しんと静まり返った春の夜はまだ少し肌寒い。名前さんは駐車場の車止めに腰を下ろしていた。俯いて片手で額を押さえているが、もう一方の手ではしっかりと火のついた煙草を持っている。


「名前さん、大丈夫っすか」
「………出水」


う、わ。隣にしゃがみ込んで声をかけると、名前さんは横目で視線を寄越す形になる。顔色はあまり変わらないが、無造作に顔にかかる前髪とか、薄い笑みだとか、なんというか、とにかく色っぽいのだ。そんな名前さんに心拍数が上がるのが分かる。そして次の言葉に、せっかく動きを早くした心臓が止まりそうになる。


「…出水は俺のこと、好き?」
「……え」
「ねえ」
「………好き、です」
「おれも、お前がすきだよ」
「は、」


名前さんの言葉に目を見張った。


「………俺、今なんか大変なこと言ったよな」
「名前さん」
「ちょ、ちょっと待て出水、酔いが冷めた!俺が言ったことは忘れろ!」
「はぁ!?無理でしょ!何言ってんの名前さん!」
「ほんとだよ!何言ってんだ俺!ああもう頼むから忘れて」


酔いが冷めて意識がはっきりしたのか、急にそんなことを言い出す名前さん。冗談なのか。この物静かな駐車場で、珍しく取り乱して顔を片手で覆う名前さんの姿を見ると、そんな野暮な質問はできなかった。顔を覆っていない、煙草を持っている方の手を掴む。


「ちょっと、危ねえだろ!」
「名前さん」
「……なに」
「俺、名前さんが好きです。ずっと、好きでいる自信があります」
「…出水、」
「名前さんは?」


いつしか太刀川さんに聞いた「ああ見えて名前さんは押しに弱いぞ、覚えとけ」という言葉を長年に渡って実践してきた結果が、もう少しで得られるかもしれない。某自称エリート風に言えば、俺のサイドエフェクトがそう言ってる。あーだとか、うーんだとか言いながら目線を彷徨わさていた名前さんが観念したように俺の目を見る。


「…俺も好きだよ、ちゃんと」


俺が待ちわびていた言葉だった。すると名前さんは、今まで俺の言葉を受け流していた理由をぽろぽろと話してくれた。それはどれも、こうした方が俺のためなんじゃないかとか、ああした方が俺が幸せになるんじゃないかとか、俺のことしか考えてないような内容だった。この人は昔から欲がない人間なのだ。



150423
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