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放課後、槍バカと面白半分で京介のバイト先に乗り込んだ。重たそうなドアを開けると、カランカランとドアベルが鳴る。


「弾バカ、あれ」
「あ?」
「名前さん、彼女いたの?」


指をさされた窓際の席には名前さんが座っていた。向かいに座る女性と楽しそうにコーヒーを飲んでいる。待った、彼女!?俺知らねえけど!名前さんは面倒ごとが嫌いな人だから、そういう話もないと思っていたのに。ていうかそんな素振りここ数年無かったのに!空気を読まない槍バカは、手を大きく振りながら彼に近寄っていく。


「お前らどうせ烏丸を弄りに来たんだろ」
「お見通しっすか」
「残念だが烏丸は休憩中だ」
「まじっすか、タイミングミスったなぁ」
「あ、紹介するわ。ボーダーの後輩の米屋と出水」
「どもっす」
「…どうも」
「あぁ、貴方が。出水くんのことはよく名前から聞くのよ。会えて嬉しいわ」
「ちょっと、変なこと言うなよ」


にこにこと話をしてくる綺麗な女の人。名前さんが俺の話をしてることは嬉しいけど、今聞いたところで全然嬉しくない。というか帰りたい。京介とかどうでもいい。きっと今の俺は面白くない顔をしているだろう。その時、ふと目があった名前さんは目を細めて笑った。


「んで、この人は俺の姉さん。一応27歳だ」
「は!?」
「えっ!わっか!!」
「姉さんは結婚してるし、子供ができたから地方に引っ越すんだ」


よく見たらどことなく名前さんに…って分かんねえよ!分かるのは2人の顔面偏差値が高いってことくらいだ。彼女と姉を間違えるなんてベタすぎるだろ、と自分に呆れる。「引っ越す前に弟にご飯を奢らせてたの」と笑顔で言う彼女は典型的なお姉さん気質らしい。名前さんが引きつった笑みを見せる。


「じゃあ私は帰るわ、旦那がそこまで迎えに来てるから」
「うん、気をつけて」
「出水くんに米屋くん、名前をよろしくね。ご飯でも奢ってもらうといいわ」
「姉さんも普通に俺に払わせる気満々みたいだけど、一応大学生だからな?」


終始にこにこと笑顔を絶やさない彼女は、「まぁまぁ、また連絡するわ」と言って店内から出て行った。「やっと帰ったか」と溜め息を吐いた名前さんは、今までお姉さんが座っていた席に俺たちを座らさてメニュー表を差し出してくる。この人のこういうところがかっこいい。


「好きなもん頼んでいいよ」
「名前さん太っ腹ー!さすがS級!」
「煽てんな、追い出すぞ米屋」


休憩から帰ってきた京介の眉間にシワが寄るまであと少し。


・・・


「………」


あれから名前さんにご飯をご馳走になり、店から出た。すっかり日も落ちて、ぽつりぽつりと街灯が灯り始めている。槍バカは防衛任務があるからと本部に向かって、二人きりになった名前さんと俺は並んで夜道を歩いている。先程の勘違い云々が生み出した気まずさを忘れられず、地面だけを見ながら無言で歩みを進めた。俺の家の前まで来たところで、名前さんが口を開く。


「出水」
「は、はい」
「姉さんのこと、俺の彼女だと思ったんだろ」
「……だって」
「お前ほんと可愛いな」


いつものように俺の頭をくしゃりと撫でて、「じゃあ明日また本部で」と歩いて行ってしまう名前さんを見送る。何も言わずに俺を家まで送ってくれるとか、かっこよすぎ。


「…って、なに今の!?」



150421
煙草は登場しません


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