ずるい/護チor暗チの誰か


 とてもずるい夢だった。

「……チョコレート食べたい」
 男所帯な所為で、雑多なアジトには女が一人。今日は仕事は仕事を任されていない。
 ぼーっと時間を潰すにはエネルギーを使い過ぎてしまった重い頭がどうにかなりそうだ。
 ふらふらとキッチンへ向かった足も、冷蔵庫にかけた手も肉の重さじゃない気がする。

「最後の1つかぁ」
 キャンディよりチョコレートが好きだろう、と渡されたホワイトデーのお返しの最後の1つを冷蔵庫から攫う。
 一口で食べ切るには少し大きい生チョコをビニールから口内へ移すと、むせ返るような匂いにクラクラする。
 大麻をチョコレートと言うけれど、本当はチョコレートが大麻なんじゃないだろうか。そんなことを考えてチョコを食べる私は、中毒者の目をしているかもしれない。
 ああ、どうしよう。
 一口で頬張ったチョコがゆっくりと溶け出す。
 余韻だけを残して自分の中へと消えるチョコを引き留める術はなかった。
「……はぁ、無くなっちゃった」
 もう一度冷蔵庫を開けてみても、チョコは無い。
 甘い余韻と陰気臭さだけが残った私はソファーに戻る。


 その後、どこからが現実でどこからが夢かは覚えていない。ただ私の唇はチョコレート以外の何かの感触を覚えている。耳はあの言葉を覚えている。

「おやすみ」

 ずるい人。

2020.04.26

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