殺人鬼の輪舞曲/金髪吉良
この街の行方不明者が女性だけ見つからないのは殺人鬼に殺されるから。
この噂が私の耳に入るようになったのは、いつからだろうか。きっと私以外の行方不明者は今頃殺されていたんだろう。
それでも殺人鬼は目の前の行方不明を殺してくれなかった。
2人には少々広すぎる部屋の中、吉良さんの手が私の手を覆う。
「まだ居るつもりかい?」
「出て行かせてはくれないでしょ」
「ふふっまだ君とは手を切りたくないんだ」
良く響くテノールに被さるヒグラシが少し物悲しい。
「吉良さん、5年前の事まだ覚えてる?」
「ああ、もちろん」
陽炎が見える程の夏には正反対の冬の事。
16歳であった。
人を殺した。
あんな奴でも殺した後はそれなりの罪悪感があった。自分は関わることがないと思っていた犯罪に手を染めた実感が重かった。とにかく逃げ出したかったが、1番の証拠をそのままにするわけに行かなかった。
何の力も伝も無い高校生が、死体を運んで埋めるなんてことも出来ずに途方に暮れたあの日。
「僕以外の人殺しに会えるなんて、思って無かったよ」
「吉良さんと一緒にしないで」
あの日、自分自身と引き換えに完全な証拠隠滅をしてもらった。
後悔はしていない。
「私を殺してくれないの?」
「……まだ生きている君を見ていたいんだ。鈴の意思で動く手なんか特に、ね」
今まで散々殺しておいて何てことを吐くのだろう。
「ねぇ、来年の今頃には殺して」
「どうかな……来年でなくとも、この手が年老いる前には殺すさ」
物騒過ぎる会話が交わされた昼下がりには、ヒグラシの声が響いていた。
2020.04.13
2つ前のサイトで書いたものを加筆修正したものです。
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