花言葉/局長
穏やかな春でも、太陽が高く登る頃になると初夏の気配が忍び寄ってくる。
巡回帰りの隊士も非番の隊士もごった返している屯所も、例外ではなかった。
少ない女中があっちへこっちへ、と駆け回る昼時。
「巡回お疲れ様です」
「鈴さんありがとう」
近藤さんに昼食を手渡し、障子に手をかけようとした時だった。
「あのっ!鈴さん!」
上ずった声で呼び止められ、鮮やかなちりめんを手渡される。
「これ、いつもお世話になっているので」
「開けてみても?」
黙ったまま頷いた近藤さんを前に、ちりめんを開くと撫子の簪だった。
「綺麗……ありがとうございます!」
「鈴さーん俺の昼まだですかぃ」
ずっと見惚れていたかったが、食事の用意が終わってない事を思い出す。
「あっただいま!近藤さんありがとうございます!失礼します」
「……こちらこそ」
近藤さんと撫子の真意に気付くのは撫子の盛りが終わる頃であった。
2020.04.13
2020.04.25 一部修正
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