名前/3部太郎


「おはよう」
朝から賑やかな教室、友人に挨拶をして自分の席へ向かった。
隣の席の人、今日は学校来たんだ。
彼はまるで学校に気まぐれで来ているみたいだった。
新学期が始まったばかりなのに、隣の席だけどあまり話さない。
席に着いて鞄から教科書を取ろうとした時だった。
ペンケースの口が開いていた。
音を立てて筆記具が床に落ちる。
しゃがんで拾っていると、目の前に大きな手先が伸びてきた。
消しゴムを拾ってくれたのだ。
顔を上げると端正な顔が真っ直ぐに私を見ている。
底無しに澄んでいて深くて青鈍の海が広がるような眼。
吸い込まれそうな眼っていうのは、こういう眼のことなんだ。
つい見入っていると、彼から声がかかった。
「……おい」
「あっごめんなさい、空条君ありがとう」
消しゴムを受け取ってすぐに彼から目を離してしまった。
初めて名前を呼んだ。
彼の名前など特に気にしたことが無かったのに。
この淡い気持ちを整理するまでには、まだ時間がかかりそうだった。
2021.02.15作成
2021.03.30up

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