夕方/金髪吉良
「吉影さん?もう良いでしょう?」
夕方の薄暗い和室に立ち込める空気が湿っぽい。
レースで化粧した手を撫で回す手は止める気はまだ無いようだ。
「ン……もう少し」
肌が吐息を感じる程に引き寄せられる。
外のものへ憂愁を向けている様な目が今は優しい。
ひっきりなしに触れ合う手のくすぐったさに、私まで何か倒錯的なものを感じずにいられない。
「ッ……後10分で終わりにしてくださいね、晩の支度があるんですから」
「ああ、もうそんな時間かい。でもそんなことを言われると、離したくなくなるじゃあないか」
背中に回っていた手に力が入り掻き抱かれ、嫌でも鼓動が聞こえそうな程に距離が縮む。
「僕は食事よりも鈴の手が良いな。せっかく買ったレースの手袋なんだから、もう少しだけ」
そう言ってまた熱の籠もった頬に私の手が近づく。
「それさっきも聞きました」
「いつも鈴もこうやって僕のことを撫で回すだろう」
「……そんなことしてました?」
痛いところを点かれシラを切る。
「じゃあ体で覚えてもらおうか」
「なーんかいかがわしく聞こえる事言わないでくださいよ」
「僕は厭らしい事は言っていないのに……いかがわしい事を想像した君の方がいかがわしいんじゃないかい?」
手から私の顔に向けられた顔は酷くにこやかだった。
「からかうんだったらもう触らせませんよ?」
「ふふふ。可愛いねぇ」
手に埋めている顔の穏やかさの纏う劣情が酷く倒錯を覚える夕方。
まだ目の前の人は私を自由にしてくれない。
2020.05.27
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