狂気浪漫/金髪吉良*大正パロ*


 どうかこの突然で無礼なお手紙をお許し下さい。
 私は貴方様を好いております。
 明日の羊三つ時、新宿のレストランでお待ちしております。もし貴方様が明日いらして下さったら、恋に咽び泣く私はどんなに救われるでしょうか。
「……またか」
 どこの誰からかも分からない手紙を、紛い物の書生は既に持て余していた。

 殺人鬼でもある吉良吉影は、邏卒から逃れる為に書生に成りすましている。
 下宿先の屋敷は大層な金持ちらしく女学校へ通う娘がいる。その娘が何かにつけて自分に接点を持とうとしているが、下宿先の娘と言うだけに無碍にできない。うざったいことこの上無いのに。
 先の手紙もこの娘が届けて来たのだ。
 美しい手の娘だが、流石に殺すのはまずいだろうか。

「吉良さぁんっこちらにいらしてよ」
「はい、只今」
 自分を呼び付けた娘は、瑠璃色の袴から脚が覗くのもお構い無しに脚を縁側へふわふわと泳がせている。
「お父様ったらね、今日も無理やりあの人と会わせたのよ。私は結婚なんかしたくないのに」
「まぁまぁ。御父上も鈴さんの事を想ってやっておられるのですから」
 名前で呼んでやるとあからさまに嬉しそうな顔をする。
「自由に好い人と添い遂げられないのは辛いわ」
「……そうですね」

 猫を被った殺人鬼は爪は伸びる感触を確かに感じ取る。
2020.05.05

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