「白石、酔ってる?」
 「酔ってないよぉ」
 あはは、と彼は電話口でわらう。酔っ払いはみんなそう言う。お風呂上がりのだらしのない格好のままそのご機嫌な声を聞いている。
 「今日さ、七夕じゃん」
 「ああ、そういえばそうだね」
 「だからさ、窓の外見て」
 白石とはバイト先で知り合った。適当で、パチンコが好きで、お金にだらしがない。でも、いつも周りを、わたしをわらわせてくれる。そういったところが、憎めない。
 促されるままのろのろと窓に寄っていく。
 「雲ってるじゃん」
 「そうなんだよぉ。これじゃあ、織姫さまと彦星さま、会えないねぇ」
 「そうだねぇ」
 空を覆う雲からは、天の川どころか月すらも見えなかった。きっと明日も憂鬱な雨が降るのだろう。
 「下見て」
 「下ぁ、」
 アパートの下に、Tシャツにコンビニの袋をぶら下げている坊主頭が目に入った。元気に手を振っている。ここからでも雰囲気でわかる、とてもにこにことしている。
 「なんかねぇ、君に会いたくなって」


あかりは降らないけど


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