「去年は一晩中雨でしたが、今夜も2人が会うことは厳しそうですね」
朝の天気予報でそんな事を言っていた気がする。まだ週の序盤、火曜日。今日は弁当の箸を床に落としたり、行きの電車が乗るたび遅れが生じていた、なんてことがあった。まぁ、平和に終わろうとしている。
19時過ぎの駅ビルは人が多い。あいつから、オリーブオイル買ってきてとメッセージがあったので珍しくビルの中を歩いている。目当てのものを買ってさぁ帰ろうかと思っていた時、それが目についた。
子らが幼い頃は小さな笹を飾って折り紙で彩ったり、天気を憂いたり、アイスクリームを食べながら夜空を見上げたりしていた。高いところに短冊をつけてほしいと、小さなからだを抱き上げたり、あいつは控えめに下の方に黄色の短冊をくくったりしていたっけ。
ぼんやりと昔の事を思い出す。過ぎる日々の中で、そんな季節のイベントを楽しむ事もなくなっていった。子ども達が出た家で、自分たちだけの贅沢なんてなかなかなかったな。
「すみません。季節のケーキ、二つください」
タルト台の上に乗った桃はあいつの好物だ。 星形の飾りの周りに小さな銀色がキラキラと光を反射している。ゼラチンが塗ってあるようで、艶々とショーケースの中に鎮座していた。
「おかえりなさい。オリーブオイルありがとう、あら、」
「たまには良いだろ。2人で贅沢したって」
相変わらず空は晴れないようだが、おまえが笑っていれば、2人だけの夜も悪くない。
重ねていく