没 | ナノ

キバナ


すっぴんを見せたくない主


 「週末空いてるか」
 「空いてるけど」
 「金曜の夜は」
 「急ぎの仕事はないから定時で上がれると思うよ」
 「じゃあいつものところに迎えに行く。金曜日、帰す気はないから。じゃあまた、」
 「えっ」
 一方的ともいえる内容を言うだけ言って電話を切られた。
 え、お泊まりデートってこと。
 いや、わたしたちは自立した大人なのでなんら問題はないのだけど。付き合って3ヶ月も経ってそういう事はしても、お泊まりはなかったってだけで普通お泊まりはあるよね。うん。
 キバナくんは狙ってこの時間にかけてきたのだろうか。うーん。お昼休憩がもう終わる。抗議するのも変な話だ。同僚のくれたチョコレートを口に含んでも不安は拭えなかった。

 検索履歴が『お泊まりデート すっぴん』『すっぴん 見せたくない』『お泊まりデート はじめて』で埋まっていく。20代半ば。10代の頃のぴかぴかの肌ではいられないのだ。
 悶々としている間にも金曜日は近づいてくる。
 悶々と出した結論としては、カラコンは寝る直前までつけておく。コンシーラーとアイブロウ、マスカラはこっそりやる。という作戦になった。
 毎朝そっと盛ってる涙袋も、潜ませているシャドウも健康的にかわいく見せてくれるリップも流石に厳しそうである。
 いわゆる、すっぴん風メイクである。
 キバナくん、気付きませんように。

 キバナくんは良い感じのバーに連れてきてくれた。良いムードの音楽、落ち着いた店内。ガラルの特産品が並んだテーブル、どれもデートで彼女を喜ばせるには最高のものだと思う。
 「お酒も美味しいねぇ」
 「なら良かった」
 しゅわしゅわとしたカクテルを傾けながら、遠くで今夜の作戦を振り返る。
 なんて事はない。シャワーを素早く済ませて、早く肌を整える。コンシーラーで粗を隠して、眉毛を存在させる。
 大丈夫。簡単だ。
 「さっきのお魚、美味しかったなぁ。また連れてきてくれる?」
 「もちろん。いつでも」
 デザートのモモンの実のシャーベットが美味しい。甘すぎなくて口の中がさっぱりする。
 大丈夫。大丈夫。

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