筧駿
最後にキスをして、と強請れば、駿くんはむずかしい顔をした。
彼は頭が良いから、わたしより考える事が多いのだ。もっと簡単に生きれば良いのに。
「だめなの?」
「オレたち、別れるんだよな」
「そうね。そういう事になったね」
貴方達合わないよ。そう何度突きつけられたのだろうか。ゆるく生きていたいわたしと、真面目さと熱さを涼しげな目元に隠している駿くんでは釣り合わないそうだ。
「オレは今真冬に振られたんだよな?」
「振ったのかな。わたし」
駿くんはよくわからないといった顔を見せた。
彼が買ってくれたプルトップ缶はあんなにひんやりしていたのに、表面がなんとなく生温い。人気のない公園でソメイヨシノはぽつり、ぽつりと花弁を広げている。まだ暮が早いのだ。彼の横顔をオレンジの光が縁取る。なんてうつくしいのだろう。
「みんなね、合わないっていうの。わたしみたいに頭のゆるい子」
「オレは真冬の事が好きだ」
「うれしい。わたしたち、それはお揃いだ」
ならどうしてだ、と駿くんが漏らす。
わたしは駿くんに見つめられると、目を逸らしたくなる。彼はわたしの気持ちを探そうとするのだ。
「もう、どうにかなっちゃいそうなの」
駿くんがわたしの左手を握った。少し汗ばんでる。
「わたしね、重たいよ。離れるなら今だよ。駿くんの事すきで、だいすきで、駄目になっちゃう。今ならまだ離れられるし」
「駄目だ」
「駿くん、」
捕まえられた左手から彼の温度が溶けていく。体温すら愛しいのだ。
「真冬がいくら重くったってオレたちは好き同士なんだろ?その…、お揃いなら問題ない」
「わたし、嫉妬深いよ?」
「知ってるよ。そして、オレも真冬が思っているより嫉妬深いな」
「いつだって一緒にいたいと思ってしまうし、毎日だって声が聞きたいよ」
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