没 | ナノ

雑多SSログ


月島基
今日も聞けずに終わった問いを、隣で眠る体温に投げる。規則正しく上下する胸が愛しくて憎い。少し高めの体温はわたしだけのものではなかったの。あなたのジャケットから木曜日、決まってただよう、あの香りはだれのものなの。
(香)

杉元
 「ねぇ、キスして良い、」彼は少し苦しそうな顔をした。「俺たち、別れるんだよね」「そうだよ。でも、わたし、佐一くんのキスがだいすきなの」なんて言えば傷ついたようにわらってわたしの後頭部に手を回す。彼は獣のようにわたしを貪り、どろりとした感情を溶かした瞳にわたしを写す。
 たまらない。
(欲)

大和猛
 「フィクションに憧れて何が悪いの」
 いつもの雑談だった筈だ。彼女は少し困ったようにわらった。それから、少し、距離を取られている気がする。
 雑草を踏んだ事に気づかないように、彼女を否定した。あぁ、なんて勿体ない事をした。
 もっとゆっくり、育てる気だったのに、彼女には俺がベストだというのに。
 またどうやって距離を詰めようか。結んだ先を手折らないように、やさしく、俺だけを見てくれるように。
(こうい)

門倉
 小さな駅だが、帰宅時間ということで混み合っている。湿気のにおいが不快だ。お気に入りの赤い傘、あの人の紺の傘。彼が傘を忘れると雨が降るのには笑ってしまう。改札を少し疲れた顔をして出てきた。目が合うと数度瞬きをしてこちらに寄ってくる。早足だ。
「あっ、」
 お約束のように足を縺れさせる様に少し笑ってしまった。2人顔を見合わせていればいつの間にか雨音は止んでいた。

尾形
 先のない関係に意味なんてない。俺も、こいつも生温さから抜け出せないだけなのだ。「今日も部長が素敵だった」なんて、本当はベッドで聞きたくない。そうか、とだけ返して薄暗い部屋で煙草をふかした。俺たちの関係はこの紫煙より曖昧で、甘い毒のように俺の感情を鈍らせる。お前も先のない感情を捨ててはやく落ちてくればいいのにな。

菊田
 笑ったときにできる、目尻のシワがね、すきでした。菊田課長の朝礼での報告を聞いて、さぁっと血が冷たくなるようでした。あなたは誰にでもやさしいから、わたしにやさしくないところが嫌いです。きっと素敵な奥様なのでしょう。この届かぬ便りは、明日、ゴミ回収車が持っていきます。気持ちも可燃性なら良かったのに。
 銀色を見ながらシワを寄せるあなたを嫌いになりたい。

鯉登
 とろけきった顔でわたしの膝に頭を倒してくる彼をあの子達は知らない。そう思えば少しは心が晴れた。髪をゆっくり撫でれば拗ねたように、子供扱いすっな、なんて口を尖らせる。かわいいな、なんて彼の頬に唇を寄せれば、足りなかったようで起き上がり、後頭部を拘束された。この顔も彼女達は知らない。

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